☆彡春のエゴイスト2
□賞状を渡したら・・・
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今日は野分の帰宅予定日で晩飯当番は俺。
ということで二人分の飯の支度をしているのだが・・・果たして野分は帰ってくるのだろうか?
一人では食べきれない量の肉を投下した生姜焼きを炒めていると
「ただいまです!」
玄関から野分の元気な声が響いた。
「お帰りー」
キッチンから挨拶を返すと、バタバタと足音が近づいてきて扉が勢いよく開いた。
「ヒロさん!会いたかった〜」
「おわっ!火使ってるところに飛びついてくんな!」
「あはは・・・嬉しくてつい。生姜焼きですか?やったー♪」
「食べたかったら手洗ってこい。」
背中に纏わりついているデカイ男を菜箸を持ったままの手でシッシッ!と払いのける。
野分は床に投げ出したバッグを拾いあげると、洗面所の方にバタバタと走っていった。
クソガキ!そんなに家の中で走りまわらなくても、生姜焼きも俺も消えねーって。
苦笑しつつ、レタスの上に肉を盛り付けていると、野分が戻ってきた。
「あれ?ヒロさん、これはなんですか?」
リビングのローテーブルに置いてあった花束を持ち上げてクンクンと鼻を近づけている。
「ゼミの卒業生達から貰った。今日卒業式だったから。」
「あー、もうそんな時期なんですね。花瓶に生けましょうか?」
「おう。頼む。」
野分は花瓶に水を注ぐと手馴れた様子で花を生け始めた。
「鬼の上條に渡すのに、ピンクと白でまとめるってどーなんだ?持って帰るのちょっと恥ずかしかったんだが。」
「アハハ・・・仕方ないですよ。感謝の気持ちを花言葉で表すとピンクや白の花が多くなっちゃうんです。」
「そうなんだ。嫌がらせかと思った。」
「プッ・・・またそうやって捻くれて考えて。学生さん達が気の毒ですよ。」
『感謝』ね・・・教え子が成長して巣立っていくのは嬉しいけれど、卒業式が終わる度に取り残されたような気分になるんだよな・・・
「寂しいですか?」
「ちょっとな。」
「でも、毎年、教え子さん達の人生の節目に立ち会えるなんて羨ましいです。」
人生の節目か・・・確かに教育者ならではの貴重な経験なのかもしれない。
「言われてみるとその通りかもな。俺、自分の時がいまいちだったから人生の節目なんて実感まったくなかったわ。」
「卒業式、つまらなかったですか?」
「式は普通に出席して謝恩会なんかもあったけど、高校まではずっと内部進学だったし、大学にも高校時代からの友達がいたし、院に進学してそのまま研究者になったから環境あまり変わってねーんだよな。」
野分や他の友人達と比べると俺の世界は狭すぎる。バイトも教授の手伝いくらいしかしたことねーし。
「俺はお前が羨ましいよ。」
中学卒業して直ぐに働き始めて、バイト経験も豊富で、留学もして、大学卒業後は病院で研修医だもんな。
新しい環境に入ってもすんなりと馴染めて・・・野分なりに苦労もあるのだろうけど、変化に富んだ人生は楽しそうだと思う。
「お互いに無いものねだりですね。俺、職場が変わるのは構わないけれど、帰る場所はずーっとヒロさんのいる家がいいな。それだけは変わりたくないです。」
野分・・・
「そうだな。俺も今の居場所が一番心地いい。」
研究は生涯続けていきたいし、野分ともずっと一緒にいたい。大きな節目はなくても、変わらずにいることが俺にとっては幸せなのかもしれない。
花を生けた花瓶をローテーブルの中央に据えて、野分は満足そうに頷いている。
「あ、今すごく素敵なアイディアが浮かびました!」
「却下だ!却下!!ほら、飯の支度できたぞ。」
「まだ何も言ってないのに却下しないでください。職場でやろうと思ったことなので、変なことじゃないですよ。」
野分は苦笑しながらテーブルに着くと、両手を合わせた。
「「いただきます。」」