☆彡春のエゴイスト2
□時にはカッコよく
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古本屋で本を物色していたら、棚の上の方に秋彦が読みたがっていた本を見つけた。
もうすぐ秋彦の誕生日だけど・・・
お互いに恋人がいるわけだし、誕生日プレゼントを贈りあうのもそろそろ止め時だと思っている。
そんなわけで、今年はまだ何も用意していなかったのだが・・・
これは希少本だから今を逃したらもう手に入らないかもしれない。見つけたのにスルーするというのも友人としてどうかと思うし。
う〜ん・・・選りに選ってどうして誕生日の直前に見つかるんだ〜!!
買おうか買うまいか迷った挙句に、買うことに決めた。
誕生日前後は避けて、ただの差し入れとして渡せばいい。秋彦の驚く顔が目に浮かんで頬が緩む。
背伸びをして手を伸ばすと、あとちょっとのところで届かない。ジャンプをして取ろうとしても本がギュウギュウに詰まっていて上手く掴み取ることができない。
はーっ・・・素直に脚立持ってくるか。
脚立はどこかと店内をキョロキョロ見回していると
「ヒロさん!」
「うおっ!!の・・・野分!?」
野分に声をかけられて思わず仰け反ってしまった。
いつもいないクセにどうしてこういう時ばっか現れるのか・・・
「どの本ですか?俺、取りますよ。」
「えっと・・・」
野分は秋彦にやる本だということを知らない。普通に頼めばいいんだ。普通に。
「あ・・・あの本!!生成り色の背表紙の・・・」
「これですか?」
「あ・・・ああ。」
野分は本を手に取ると、はいっと俺に渡してくれた。
「サ・・・サンキュ・・・」
「それ宇佐見さんへのプレゼントですか?」
何故わかる!?
「た・・・ただの差し入れだ!!誕生日プレゼントじゃねーから!!」
なに弁解してるみたいになってんだ〜
動揺している俺を見て、野分はクスッと笑って
「今年は差し入れにすることにしてくれたんですね。お気遣いありがとうございます。」
嬉しそうに礼を述べた。
「別に・・・これは俺なりのケジメであって、お前に気を遣ってるわけじゃねーから。」
「それでも嬉しいです。」
「つーか、なんで秋彦にやる本だってわかったんだよ?」
「ヒロさんの様子を見れば隠し事をしているのは一目瞭然ですよ。宇佐見さんの誕生日、もうすぐですし。」
うっ・・・俺ってそんなにわかりやすいのか。
本を買って、野分と一緒に店を出た。
買った本はカウンターで野分が受け取って当たり前のように持ってくれている。二袋あれば俺が片方持つのだけれど、今日は一袋だけだし、奪い取るのも野暮な気がして素直に甘えることにした。
「仕事、終わったのか?」
「はい。明日は休みです。」
俺は仕事なんだが・・・家で野分が待ってると思うだけでウキウキした気分になってしまう。
「スーパーで買い物して帰りましょう。晩ご飯何がいいですか?ヒロさんの食べたいもの、何でも作りますよ♪」
「じゃあ、煮魚。あと、豆腐が食べたい。」
「了解です。お仕事忙しいですか?」
「なんで?」
野分はちょっと心配そうに俺の顔を覗き込むと
「ヒロさんが柔らかいものを食べたい時はお疲れ気味のことが多いので。顔色は大丈夫みたいですね。」
額にさりげなく触れて熱を確かめている。
医者の表情になった野分に一瞬ときめいてしまって・・・咄嗟に手を振り払ってしまった。
「あ・・・すまん。」
「いえ、まだ外なのにいきなり触ってすみませんでした。」
野分が謝ることなんかないのに。
「そういうんじゃなくて・・・今のは・・・えっと・・・ついうっかり心臓がドキっとして・・・だな・・・」
我ながら何を口走っているのか、わけがわからない。
「プッ・・・ヒロさんは可愛いです。」
優しい笑顔を向けられて、体温が急上昇してしまう。真っ赤になった顔を見られないように俯いていると
「下向いて歩いてると危ないですよ。」
野分がさりげなく手を握ってくれた。
「人が来たら離します。」
少し歩いたら落ち着いてきたので、さっきの質問に答えることにした。
「論文の締め切りが近いのに、後期試験の追試だの、宮城教授の手伝いだの色々あって。まあ、いつものことなんだけど、少し疲れてるのかもしれない。」
「そうなんですね。」
「忙しいって言ってもお前程じゃねーけどな。帰りに本屋に寄る余裕もあるわけだし。」
「あ、もしかしてまだ本選んでる途中だったんじゃ・・・俺、邪魔しちゃいましたか?」
確かに俺一人だったらもう少し本屋にいただろうけど、特に目的があって本屋に寄ったわけでもないし。
「お前のこと邪魔だなんて思うわけないだろ。久しぶりに晩飯一緒に食べられるのに、本屋に長居するつもりねーから。」
「ヒロさん///」
繋いでいた手にギュッと力を入れて、野分は嬉しそうにニコニコしている。
今夜の野分はカッコよくてドキドキさせられっぱなしだけど、見えない尻尾をブンブン振っている姿を見たらホッとした気分になった。
夜はまだ冷えるけれど、野分の隣にいるだけで寒さなんか感じないくらい心が温かくなるんだ。