純情エゴイスト〜のわヒロ編4〜
□すれ違いもなんのその
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Side 弘樹
「野分…何処に…野分!!」
自分の叫び声で目が覚めた。リビングで本を読んでいる最中に眠ってしまったようだ。
それにしても…なんて夢を…
夢の中で野分はとても寂しそうな目をしていた。俺の顔を見て小さく笑って、それから…
野分の姿が次第に遠ざかっていく。
「野分、何処に行くんだ?野分…」
声をかけても野分は寂しそうに笑うだけで…どんどん俺から離れていってしまう。
「嫌だ…何処にも行くな!お前は俺が好きなんじゃねーのかよ!野分!!」
必死で追いかけたけれど野分との距離は広がるばかりで、真っ暗な闇の中、一人置き去りにされるのが怖くて…
夢から醒めてもまだ心臓が不安で波打っている。野分は…まだ帰っていないようだ。
本をテーブルに置いて水を飲みにキッチンに向かった。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲みながら、最後に野分と会った日のことを思い返す。
事の発端は5日前…
帰宅して郵便受けを覗くと単行本サイズの小包が入っていた。多分、来週発売の秋彦の新刊。一足早く送ってくれたようだ。
ワクワクしながら包みを抱えて部屋に向かう。
エレベーターの中で紙袋を開けると予想通りの品が入っていて心が躍った。早く読みたい!
部屋に入ると靴を脱ぐのももどかしく、急いでリビングに行こうとして慌てて玄関に戻った。
玄関の鍵、ちゃんとかけないとまた野分に叱られる。しっかりと鍵をかけたのを確認して改めてリビングに急いだ。
鞄を投げ出してネクタイを解くと、早速ソファーに身を投げ出して本を開いた。
「ヒロさん!起きてください。いい加減起きないと遅刻しますよ!」
野分の声で目が覚めた。俺、いつの間にベッドに…
秋彦の本をしっかりと抱き抱えていたのに気づいて慌ててサイドテーブルに投げた。
最後まで読み終えて、満足して、寝落ちしたようだ。
野分の目が怖い…
「おはよ…」
「おはようございます。朝食作ったんで食べてください。」
「うん…って、ヤベ…遅刻する!!」
時計を見て跳ね起きて、大急ぎで出勤支度を始めた。
「野分、悪い。朝飯、途中で買ってくから冷蔵庫にしまっといてくれるか?」
「もう!折角作ったのに…」
野分はちょっとだけ頬を膨らめて拗ねた顔をしている。
「すまん!って言うか、お前が早く起こさないのが悪い!」
理不尽なセリフを吐きつつ、Yシャツに袖を通していると、野分は小さく溜息をついて小言を洩らし始めた。
「ヒロさん、昨夜玄関の鍵…」
「鍵?ちゃんとかけただろ?」
わざわざ戻って確認までしたんだ。
「確かにかかってましたけど、鍵が挿しっぱなしでしたよ。」
「へっ!?」
「俺が帰ってきたから良かったものの、不審者が入ってきたらどうするつもりなんですか。」
そう言いながら野分は俺の鍵を返してくれた。
「ごめん。昨夜は急いでてついうっかり…」
「うっかりにも程があります!その上、宇佐見さんの本を大事そうに抱えたままリビングで寝てるし。ヒロさんを部屋に運んでいるときも『秋彦、お前最高!』なんて幸せそうに寝言を言ってるし…俺がどんな気持ちでいたか…」
「ほんと、すまん!」
寝ている時は不可抗力とは言えそれはマズイよな。
そう思って素直に謝ったのに、野分のヤツが『ヒロさんは無防備で危ない』だとか『宇佐見さんには敵わない』だとかグチグチと小言を並べたてるものだから
「いい加減にしろ!俺は鍵かけたの確認したし、秋彦の本が面白いのは本当のことだしもういいだろっ!」
「ヒロさん…」
「行ってくる!」
逆切れして飛び出してきてしまった。