純情エゴイスト〜のわヒロ編4〜
□with you
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仕事帰り、野分と待ち合わせをして食事に行った。
終業時間が野分と重なるのは久しぶりで、食事の誘いのメールをもらった時は何かの間違いなんじゃないかと思って何度も読み返してしまった。
駅で野分を待っている時も、来ないのを覚悟していたけど…
「美味しかったですね。ヒロさんとデートできて良かったです♪」
『デート』という言葉が久々過ぎて思わず赤面してしまう。ただの食事だと否定しようとしたら、嬉しそうに微笑みかける野分と目が合ってついうっかり
「うん///」
頷いてしまった…ちょっと恥ずかしいけど、素直に言えて良かった。
野分が『今日はいつもと違う店に行きましょう』なんて言うものだからウキウキしながらついて行ったら、着いた所はいつもとは違うチェーンのファミレスだった。
最寄駅の近くのファミレスって、大人がデートする場所としてはどうなのかと思わなくもないが…学生時代からの定番のデートスポットなのだから仕方がない。
それに、正直野分が一緒なら店なんてどこでもいいのだ。
「ヒロさん、こっちの道行ってもいいですか?」
ファミレスデートで学生時代を思い出したのだろうか?あの頃は少しでも長く一緒にいたくて駅まで一番遠い道を選んでいたけど今は…
俺としては一刻も早く家に帰って野分と二人きりになりたい!…なんて言えるわけもなく
「ああ。」
野分に促されるまま横道に入った。暫く歩くと繁華街の雑踏やネオンは次第に消え、昔ながらの古い家が並ぶ住宅地に出た。
「へー…駅前なのにこんな場所がまだあるんだな。」
食事をしたファミレスはいつも利用している改札の反対側にあって、こっち側にはあまり来たことがなかった。
「俺も最近まで知らなかったんですけど、バイトの配達先がたまたまこの辺りで…」
話しながら野分が手を伸ばしてきた。手と手が触れ合って…しっかりと繋がる。
「外でこういうことできる場所ってあまりないから。」
野分は絡まり合った指にキュッと力を入れて、にっこりと微笑んだ。
遠回りするのも…悪くないかもしれない。
駅前通りに出たので手を放して歩いていると
「す…すみません…アンケートにご協力いただけませんか?」
突然か細い声で呼びとめられた。
業者には見えないけど女子大生だろうか?ビクビクした様子でこっちを見つめている。
「いいですよ♪」
野分が優しげに微笑んだ。
「野分!関わるな!」
女子大生相手にヘラヘラしてんじゃねーよ!それに、ネット時代に街頭アンケートなんて怪し過ぎる。
野分の腕をグイッと引っ張ると、野分は苦笑しながら俺を制した。
「まあまあ、協力してくれる人が少なくて困ってるみたいですし、怪しい質問だったら断ればいいじゃないですか。」
確かに…女子大生が手にしているバインダーには白紙のアンケート用紙が何枚も重ねられている。それにあんな小さい声じゃスル―されるよな。
「しょうがねーな…」
「ありがとうございます!卒論に使うデータ収集で昼からずっとここで頑張ってるんですけど、立ち止まってくれる人がなかなかいなくて困ってたんです。」
卒論か。そういうことなら、教育者として見過ごすわけにはいかない。
野分が書いているのを覗くと、アンケートは結婚や少子化に関する簡単な意識調査で怪しいものではなさそうだ。
野分が書き終わるのを待って、俺も協力させてもらった。
書き終わったアンケート用紙を女子大生に渡していると
「この人達も協力してくれるそうですよ。」
野分が何人か捕まえてきた。俺が書いている間に周りの人達に声を掛けていたようだ。
「ありがとうございます!!」
女子大生は尊敬の眼差しで野分を見上げて、集まってくれた人達にペコペコと頭を下げている。
野分は人懐っこくて誰にでも好かれるヤツだってことはわかってるけど…
女子大生と別れて野分と一緒に歩きだした。
「お前さ…」
「なんですか?」
「ほんとに俺なんかでいいのかよ…」
優しくて可愛くて、野分のことを理解してくれる子はきっといると思う。こいつなら選びたい放題だろうし。
それにさっきのアンケート…野分は普通に家庭を持った方が幸せなんじゃないだろうか。
「俺はヒロさんがいいです。どうしてそんなこと聞くんですか?」
「どうしてって…」
野分はわけがわからないといった様子でまじまじと俺を見つめている。聞いた俺がバカだった。
「何でもねーよ///」
「あの〜、何度も言うようなんですが俺の世界はヒロさん中心に回っていて、ヒロさん以上に好きになる人なんていないんです。だから安心してください。」
「だよな…変なこと聞いてごめん。」
野分がこんなに想っていてくれるのに、一瞬でも野分の気持ちに疑いをもった自分が恥ずかしい。
って言うかこんな会話をしていること自体が恥ずかしいんだけど///
「なんか俺達ラブラブですね♪」
「言うな!バカっ!!」