純情エゴイスト〜のわヒロ編4〜
□温泉に行こう♪
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プレイルームで子供達と遊んでいたら、津森先輩に声をかけられた。
「野分、ちょっと。」
手招きするように人差し指を自分の方に向けてひょこひょこと動かしている。
急患ではなさそうだけど…なんだろう?
「ごめん、先生行かなくちゃ。また後で遊ぼうね。」
子供達に声をかけて立ち上がると、廊下で待っている先輩の所に向かった。
「先輩。」
「これ、医局長からお前に渡してくれって頼まれたんだけど。なんかセミナーの案内みたいだぞ。お前、いつ申し込んだんだよ?」
そう言いながら先輩は大きな白色の封筒を差し出した。封筒の下の方には学会名や連絡先が記載されている。
早速中を確認してみると
「『研修医のための神経内科セミナー プログラム』…って、何ですか?これ?」
学会やセミナーの年間日程表で見た記憶はあるけど、申し込んだ覚えはない。
「これ多分俺のじゃないです。他の科に配属されてる同期に聞いてみますね。」
神経内科志望って誰かいたかなぁ?同期の顔を頭に思い浮かべていると…
「あーっ!そうだ、これ俺が申し込んだやつだ!」
横からプログラムを覗き込んでいた先輩が声をあげた。
「自分で申し込んで忘れないでくださいよ。先輩、神経内科にも興味あったんですね。キャリアアップ目指してるんですか?あれ?でもこれ、『研修医のための』って…」
「俺じゃなくて、お前が行くんだよ。お前の名前で申し込んだんだから。」
「はい?」
冗談も大概にしてほしい。
俺の志望とは関係ないし、必須ではなく希望者対象のセミナーだ。しかも日曜開催。
小児救急はただでさえ人手不足なのに休日で手薄になる時にセミナーなんて申し込めるわけがない。
「こっちは俺に任せてちゃんと勉強してこいよ。」
先輩はパシパシと俺の肩を叩きながら笑っている。
「あの〜冗談ですよね?」
「ん?」
「こんなの勝手に申し込めるわけが…あれ?」
俺の名前と病院名が記載された名札が入ってる…
「えっ!?これ本物ですか?ほんとに俺が行くんですか?」
「うん。さっきからそう言ってんだろ。」
せーんーぱーいー…呆れて声も出ない。
「そんな怖い顔すんなって!ほら、開催地見て見ろよ。」
開催地?プログラムを目で辿っていくと『○○温泉病院』と書かれている。
「遠いです…泊りがけじゃないとダメですね。交通費っていくらまで出るのかなぁ…」
「そうじゃなくて!休日だし、温泉地だからさ、上條さん誘って行って来いって話なんだけど。」
あっ…
「あ〜〜〜〜っ////」
「感謝しろよ!」
「感謝します!!ありがとうございます!」
先輩が神様に見える。ヒロさんと一緒に温泉♪夏期休暇中だし休日出勤はないよね?
「ヒロさんにメールしてきます!」
「おう、行って来い。」
急ぎ足でロッカールームに行くと、ヒロさんに予定を空けておいてもらえるようにメールを打った。
スマホをしまおうとしていると、ブルブルッとバイブが鳴った。ヒロさんからだ!
こんなにすぐに返信が来るなんて…もしかしてもう予定が入っちゃってるとか…不安で胸がざわつく。
ドキドキしながらメールを見ると
『わかった。』
良かった〜!ほっとすると同時にワクワクした気持ちになってきた。
ヒロさんと温泉に行ける!準備しなくちゃ♪