純情エゴイスト〜のわヒロ編4〜
□魚心あれば水心
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重い身体を引きづりながらやっとのことで玄関に辿り着いた。
新聞受けから朝刊がはみ出している。ヒロさん、まだ起きてないのかなぁ?
病院を出る前にヒロさんに『これから帰ります』とメールをしたんだけど返信はなかった。
てっきり本探しに夢中で気づかないんだろうと思っていたけど、寝てるのかもしれない。
もうすぐお昼になる時間なのにしょうがないなぁ…
だけど、出かけてなくて良かった。もうすぐヒロさんに会える♪
「ただいまです。」
ドアを開けて玄関に入った。靴を脱ぎながら新聞受けの蓋を開けて朝刊を取り出す。
チャリーン…足元で金属音が鳴り響いた。
えっ?…下を見ると見覚えのあるキーホルダーが付いた家の鍵が転がっている。
鍵を拾い上げて中に入った。
リビングはカーテンが閉まったままで薄暗い。荷物をソファーに置いてカーテンをサッと開けた。
それから真っすぐにヒロさんの部屋に向かう。
「ヒロさん?」
声をかけてドアを開けると、ヒロさんはベッドで眠っていた。
起こさないように静かにヒロさんに近寄ると、ヒロさんはタイミング良く寝がえりを打ってこっちを向いてくれた。
すやすやと気持ちよさそうに眠っている。かわいい…
今すぐ抱き締めたいけど、起こすのは可愛そうだ。キスしたら起きちゃうかな?
そ〜っと顔を近づけて軽くキスをした。今日のキスはお酒の味。
ベッドの下に脱ぎ散らかされた服を拾い上げると微かに煙草の匂いがした。宇佐見さんと飲んできたんですね…
「ほったらかしにしてごめんなさい。」
ヒロさんの髪をそっと撫でて、タオルケットを掛け直す。
それからリビングに戻って二日酔いの薬を持ってきた。
サイドテーブルに薬と水、玄関の鍵を置いてヒロさんの部屋を出た。
「俺も少し寝ます。おやすみなさい。」
夜にはまた病院に戻らないといけない。ヒロさんが寝てるなら俺も休んでおこう。
睡眠不足よりヒロさん不足の方が深刻なんだけど仕方がない。小さく溜息をついて自室に向かった。
2時を少し過ぎたところで目が覚めた。カチャカチャと食器が触れ合う音が聞こえる。
ヒロさん…
直ぐにベッドから起き上がってリビングに向かった。
「ヒロさん、おはようございます。」
「おはよう…もう昼だけどな。」
食卓には二人分の昼食がならんでいる。
「いつ帰ってきたんだ?」
「11時くらいに。」
「3時間しか休んでねーじゃん!飯作ったんだけど、食えるか?」
「大丈夫です。」
そう応えながらヒロさんをギュッと抱きしめる。
「野分…」
「ヒロさん、顔色が悪いです。二日酔いなのに無理させちゃってごめんなさい。」
「うっ…」
ヒロさんはいたたまれなさそうに俯いて俺の胸に顔を埋めた。
「酒臭くてごめん。」
「気にしないでください。」
「あと、薬ありがとな。」
「はい♪」
笑顔で応えると、ヒロさんが顔を上げてくれたので、すかさずキスをした。
触れるだけの軽いキス…これ以上したら我慢できなくなりそうだから。
ヒロさんが欲しいけど、ヒロさんが一生懸命作ってくれたできたてのご飯を食べる方が先だ。
「お腹ぺこぺこです。」
「えっ?…悪い、足りねーかも。もっとガッツリ食えるもの作ればよかった。」
今日のメニューは素麺と野菜サラダ。
麺の上には氷と一緒に缶詰の蜜柑が並んでいる。上條家では普通みたいだけど世間一般ではどうなんだろう?
「いえ、寝起きなのでこれくらいで丁度いいです。ヒロさんは食べられそうですか?頭痛とか吐き気がするなら無理しないでくださいね。」
「大丈夫だ。」
食卓について手を合わせる。
「「いただきます!」」