純情エゴイスト〜のわヒロ編4〜
□ヒロさんにはお見通し?
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今日は土曜日。ヒロさんが買い物に行きたいと言うので一緒に行く予定でいたのだけれど…外は土砂降り。
その上、昼過ぎまでベッドで過ごしてしまった。夕方には病院に行かないといけないから買い物は中止だ。
食器洗いをしているヒロさんを後ろからそっと抱きしめる。
「のーわーき!両手が塞がってるときにそういうことすんな!」
「痛っ!」
泡だらけの手で殴られることはないだろうと油断していたら、足を思い切り踏まれてしまった。
「ソファーで休んでろよ。昨夜殆ど寝てねーだろ。」
「そんなことないですよ。たっぷり睡眠をとって元気いっぱいです♪」
「嘘つけ!あれだけやっておいて、どーせ俺が寝た後も寝顔見てたんだろっ!」
うっ…図星を指されてぐうの音も出ない。
「ごめんなさい。俺の所為で買い物に行く時間がなくなってしまって。」
「お前だけの所為じゃねーよ。雨も降ってるし。いいから寝てろって!」
眠くないわけじゃないけど、俺はヒロさんを見ている方が癒されるんです。
「食べてすぐに寝ると牛になるって言うじゃないですか。ヒロさんは俺が牛になってもいいんですか?」
「それ嘘だから。食べた後は休んだ方がいいって何かの本に書いてあったし。そういうの、お前の方が詳しいんじゃねーの?」
その通りです…俺、医者なのにバカなこと言いました。
ヒロさんは俺の方を見ようともせずに鍋をゴシゴシと擦っている。
ヒロさん、俺の身体のこと本気で気遣ってくれてるみたいだ。大人しく休んでよう。
ソファーに腰を下ろしてぼんやりとしていると
(ピンポーン)
チャイムが鳴った。
「俺、出ます!」
びょんと飛び起きて玄関に向かう。ヒロさんの本かな?
「草間野分さんにお届け物です。」
「俺?」
持っていたヒロさんのハンコを慌てて自分のと取り替えた。
「ありがとうございましたー!」
「ご苦労様です。」
段ボール箱に貼られた伝票にはヒロさんのお母さんの名前が書かれている。中身は…メロンだ♪
「ヒロさん!ヒロさん!お母様からメロンが届きましたよ♪」
「お前に?」
「はいっ!」
「あのババァ、俺には何も送ってこねーくせに!」
ヒロさんはムスッとして鍋に水をジャージャーとかけている。
ヒロさんの性格はお母さん譲りなんだと思う。本当はヒロさんに送りたいのに照れくさくて俺や宇佐見さんを経由するんだ。
カッターで段ボール箱を開けて驚いた。
「わ〜っ♪桐箱に入ってますよ。こんな高級メロン食べるの初めてです!」
一緒に入っていた説明書きをみたら丁度食べごろのようだ。
洗い物を終えて、ヒロさんもやってきた。
「スゲーな。お前、どれだけ気に入られてんだよ。」
「あとでおやつに食べましょう。ご実家にお礼の電話をしないと。」
電話をかけに行こうとしたら、ヒロさんに腕を掴まれた。
「ちょっと待て、なんかカードがついてるぞ。」
ヒロさんは箱の隅に添えられていたカードを取って渡してくれた。
「メッセージカードみたいですね…えっと…『雑誌掲載おめでとうございます。流石はヒロちゃんが選んだ人ね!』えっ?これって…」
ヒロさんの方を見ると、真っ赤な顔であたふたしている。
お母さんの一言に困惑してるみたいだ。頭から湯気でてるけど大丈夫かな。
「こんな話どこで聞きつけたんでしょう?とりあえず、電話してみますね。」
アドレス帳からヒロさんの実家を選んで受話器を取った。数回のコールの後で明るい声が聞こえてきた。
『はい。上條です。』
「こんにちは。草間です。ご無沙汰してます。」
『まあ、野分君?今日はお休みなの?』
「いえ、夕方から仕事なんです。メロン頂きました。高価な物をありがとうございます。」
『お祝い事だから奮発しちゃった♪初めての雑誌掲載だったんでしょ?おめでとうございます。』
「ありがとうございます。あの〜、そのこと何処で聞いたんですか?」
今月号の小児科学術雑誌にうちの病院の新人医師と研修医が協力して著作した免疫とアレルギーに関する論文が掲載された。
確かに雑誌に名前が載るのは初めてのことだけど、専門書だし、6人チームの末尾に並んだ俺の名前に気付くなんてビックリだ。
ヒロさんには話してないし、ドクターの知り合いでもいるのかな。
『先週、ヒロちゃんが家に来たときに話してくれたの。』
「へっ…?」
どうしてヒロさんが?
『ヒロちゃん、凄く嬉しそうだったわよ。』
「そうなんですか…メロン、ヒロさんと一緒にいただきますね。」
『たまには家にも遊びに来てくださいね。』
「なかなかお伺いできなくてすみません。ご主人にもよろしくお伝えください。」