純情エゴイスト〜のわヒロ編4〜
□ムキになるのも君のため
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仕事帰りに鯛焼きを買った。
甘いものは連勤の疲れを癒してくれる。俺の場合はヒロさんと鯛焼きだ♪
おやつの分と、ヒロさんと一緒に食べる分も。
沢山買い込んでホカホカの紙袋をバッグにしまっていると…
「草間さん?」
声をかけてきたのは高橋美咲君。ヒロさんの教え子で宇佐見先生の恋人だ。
「美咲君、お久しぶりです。美咲君も鯛焼きですか?」
「はいっ♪ここの鯛焼き美味いっすよね!」
美咲君もトートバッグに鯛焼きをしまっている。今買ったばかりみたいだけど…
「俺の後ろに並んでたんですね。気がつかなくてすみません。」
「いえ、間で女子高生の3人組がおしゃべりしてたんで気付かなくても仕方ないですよ。俺はすぐに草間さんだってわかりましたけど。」
ああ、俺はデカいから遠くからでもすぐわかるってヒロさんも言ってたっけ。
鯛焼きについて少し語り合って別れようとしたら、美咲君も俺と同じ駐輪場に自転車を停めていると言うので途中まで一緒に帰ることになった。
美咲君と並んで歩いていると、美咲君が羨ましそうに俺を見上げてきた。
「やっぱ背が高いっていいな〜。どうしたらそんなに大きくなれるんですか?」
「子供の頃、牛乳を沢山飲んだからかなって思ってたんですけど、ヒロさんは牛乳飲んでも目標身長に届かなかったみたいで、『絶対違う!』って言われちゃいました。なので俺にもわかりません。」
「やっぱ遺伝かな〜」
美咲君はガックリと肩を落としている。
「そんなにがっかりしないで。小さい方が可愛いですよ。」
「男が可愛くてもしょーがないんです!全然フォローになってませんよ〜」
「ヒロさんにも可愛いは男に使う褒め言葉じゃないってよく言われますけど、俺はそんなことはないと思いますよ。」
元気づけてあげたくてそう言ったら、美咲君が足を止めた。ピクピクと頬を引きつらせている。
「どうしたんですか?」
「草間さん…もしかして上條先生のこと可愛いと思ってるんですか!?」
「はい!ヒロさんは可愛いです♪」
「えーっ!!失礼ですけど参考までに…どんなところが?」
そうか、美咲君にとってヒロさんは鬼の上條と呼ばれる怖い先生なんだよね。だけど、そんなにビックリしなくっても…
「それは内緒です。ヒロさんの可愛いところは俺だけが知っていたいので♪」
「はぁ…」
美咲君は呆れ顔で俺を見つめている。
「前から不思議に思ってたんですけど、草間さんと上條先生って正反対のイメージじゃないですか。恋人同士って言われてもピンとこなくて。」
「ヒロさんは厳しくて乱暴なところもあるけど、本当は優しくて可愛い人なんですよ。」
「俺はひたすら怖いです…」
それは美咲君の学習意欲が足りないからだと思う。ヒロさんは理由もなく人を叱りつけるようなことはしないから。
「俺が仕事でなかなか帰宅できなくても、デートの約束をドタキャンしてもヒロさんは怒るどころかいつも頑張れって励ましてくれるんです。」
「へー…」
「医学部に入れたのだってヒロさんが勉強を教えてくれたお陰ですし、学会で発表することになって緊張していた時も、お守りにって自分のネクタイを貸してくれたんですよ。」
俺がこうして夢を追いかけていられるのも、ヒロさんがいてくれるから。
そう思ったら早くヒロさんに会いたくなってしまった。
ヒロさん、まだ仕事中かな?今夜は早く帰ってきてくれるといいな…
ぽわ〜んとした気分に浸っていると、美咲君が話し始めた。
「俺が大学に入れたのはウサギさんのお陰かな。ウサギさんも教え方とっても上手いんですよ。」
「そうなんですか。」
「上から目線でタダでは教えてくれないところがムカつくんですけど、チョークが飛んでこない分ウサギさんの方がいいかな〜」
美咲君はそんなことを言ってるけど、本職のヒロさんの方が絶対教え方が上手いと思う。
「宇佐見さんは確かに優秀だと思いますけど、文学に関してはヒロさんに敵わないですよ。ヒロさんは凄い人なんです。」
「そうかな〜?ウサギさんも本いっぱい持ってるし、詳しいですよ。」
美咲君に悪気はないんだろうけど、ちょっとイライラしてきた。
「ヒロさんの蔵書の方が絶対多いです。希少本も沢山持ってるみたいですし、宇佐見さんだってヒロさんに借りにくるじゃないですか。」
「ウサギさんもよく先生に本を差し入れしてるみたいですよ。」
「それは、いつも新作の下読みをしてもらってるお礼なんじゃないですか?」
宇佐見さんが売れっ子小説家でいられるのは、少なからずヒロさんのアドバイスの賜物だと思う。
「草間さん?あの〜もしかして怒ってます?」
はっ!と我に返って笑顔を作った。
「怒ってませんよ。」
こんなことくらいで腹を立てるなんて大人げない。ちょっと頭冷やさないと。
「バカウサギと比べるようなこと言ってごめんなさい。あんな先生でも草間さんにとっては一番大切な人なんですよね。」
「あんなって…」
流石にその言葉は聞き捨てならない。俺のヒロさんをそんな風に言うなんて…
「あっ!すみません!ついうっかり…本音が…」
「本音…」
「く…草間さん?黒いのがでてる…気がするんですけど…」
「もういいです!美咲君にヒロさんの話をした俺がバカでした。もう美咲君にお話しすることはありません!」
そう言い捨てると、美咲君を残して大股で歩き出した。
ヒロさんのこと何も知らないクセに…美咲君なんて大嫌いです!