純情エゴイスト〜のわヒロ編3〜
□Love&Respect
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洗面所で濡れた髪を乾かしていると、
「ヒロさん、ヒロさん!今日の服こんな感じでどうでしょう?」
野分が部屋から走って来た。
鏡の前でちょっと照れくさそうに頬を染めながら、曲がったネクタイを調節している。
「何でスーツ着てんだよ…普通の格好でいいって、昨日言っただろ。」
「へっ?」
野分は手を止めてキョトンとした顔で俺を見つめた。それからTシャツにシャツを重ね着したラフな姿の俺を見て、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「あはは…すみません。普通の格好って、ヒロさんが普段職場に行くような服装をイメージしちゃってました。普段着でいいんですね。着替えてきます!」
そう言って、野分はバタバタと部屋に戻って行った。
今日は土曜日。久々に野分と休日が重なったので出かけることになった。
野分が言うにはデート…らしいのだが、目的地は日本近代文学館。一般的なデートには程遠い。
近代文学館の展示室で先週から貴重資料が公開されていて、時間があったら行こうと思っていたのだが、まさか野分と一緒に行けるなんて思ってもみなかった。
文学に野分…好きな物尽くしで柄にもなくワクワクしてしまい、今朝はいつもよりも早く目が覚めてしまった。
結局、朝から野分に攻められて、出かける時間が予定よりも遅れてしまったのだが…
シャツの襟元を調整して、Tシャツから僅かに除く紅い印を隠す。野分のヤツ…こんな所につけやがって…
だけど…未だ身体に残る野分の温もりを感じて嬉しくなる。
それに、普段は服装に無頓着な野分が俺とのデートのために、頑張ってくれたこともちょっとだけ嬉しかったりする。
緩んだ頬をパンパンと叩きながらリビングに行くと、野分も戻ってきた。爽やかなネイビーのTシャツが長身によく似合う。
「行きましょうか♪」
「ああ。」
差し出された手をパシッと軽く叩いてスタスタと玄関に向かう。
「ヒロさん、待って下さい。」
苦笑しながら後に続く野分。楽しい一日になりそうだ。
駅を出ると懐かしい景色が広がっている。
この辺はT大のキャンパスも近く、学生時代によく通っていたエリアだ。
仕事ではM大近くの国文学研究資料館を利用することが多く、こっちの方まで来るのは数年ぶりだ。
「この駅、初めて降りました。渋谷が近いからもっとごちゃごちゃしているのかと思っていたんですけど、静かでいい所ですね。」
「ああ、この辺は学校が多いし、文学館は公園の中にあるんだ。」
「ヒロさんが楽しそうで良かったです。」
文学館なんて野分にとっては畑違いもいいところなのに、一人で浮かれている俺を見て、嬉しそうに微笑んでくれるから…
「野分、こっち!」
野分に向かって手を差し出した。誰も見てねーし、今だけは特別。
「ヒロさん///」
野分の手をキュッと掴んで歩きだす。火照った顔に気付かれないように、早足で…