純情エゴイスト〜のわヒロ編3〜

□野分の悩み事
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休憩室でお茶を啜りながらヒロさんのことを考えていると、津森先輩が入ってきた。

「お疲れ!」

「お疲れ様です。」

「何だ?お前元気ねーな。上條さんと喧嘩でもした?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと疲れているだけです。」

勤務中は仕事に集中しているから普段通りに振る舞えるけれど、こうして一人で休んでいると素の表情が出てしまう。

先輩は鋭いから気をつけないと。

「嘘ついてんじゃねーよ!何か悩み事があるなら聞くぞ。」

「すみません。悩んでる事はあるんですけど、人に相談できるような事じゃないんです。放っておいてください。」

こんなくだらないことで悩んでるなんてカッコ悪くて言えるわけが無い。

「ふ〜ん…じゃあ、上條さんに野分がなんか悩んでるみたいですよって言っちゃおうかな〜。今夜着替え届けに来るんだろ?」

何故それを!?

「先輩!!もう!どうして人のプライベートに首突っ込もうとするんですか〜」

「だって、お前や上條さん見てると楽しいんだもん♪で、悩み事って何?」

二カッと笑みを浮かべる先輩に、溜息が洩れる。

「本当にくだらない悩みなので、ヒロさんには絶対に言わないでくださいね。」

「うん♪」

仕方なくバカにされるのを覚悟で先輩に相談してみることにした。

「先輩、愛ちゃんのお気に入りの人形知ってますよね?」

「ああ、いつも持ち歩いてるリリカちゃん人形だろ。それがどうかしたのか?」

「俺、先月その人形の服に薬を溢してしまって汚しちゃったんです。」

「わ〜…草間先生酷で〜」

うっ…愛ちゃんの泣きそうな顔を思い出してしまった。

先輩、本当に相談に乗ってくれる気あるのかなぁ…

「それで、お詫びに新しい服を作ってあげる約束をして、人形を借りて帰ったんですけど…」

「ちょっと待て!人形の服、おもちゃ屋で売ってるぞ。お前、わざわざ手作りしたの?」

「へっ?売ってるんですか?知らなかったです。」

やっぱり女の子のおもちゃはよくわからない。

先輩は呆れたような顔をした後、肩を震わせてクスクスと笑いだした。笑いごとじゃないんですけど…

「夜中に自分の部屋で作ってたんですけど、たまたまヒロさんが起きてきて俺の部屋に来たんです。枕持って『寒い…』って…あの時のヒロさん可愛かったな〜///」

「野分、話が脱線してないか?」

「あっ、そうでした。それは良かったんですけど、ヒロさん俺が人形の服を作ってるのを見て硬直しちゃって。」

「あー…普通はそうなるわな。」

ヒロさんは俺の手元を見たまま固まって、その後オロオロと慌てだして

「す…すまん…俺は何も見てねーから!!」

ってダッシュで自分の部屋に戻って行っちゃったんだよね…

「変な誤解をされたまま、翌日はヒロさんが起きる前に家を出てしまって、ちゃんと話す時間が無かったんです。」

「最悪だな…」

はい。最悪です…

「それから、5日前のことなんですけど。」

「まだ何かあるのか?」

「洗濯物を干していたら、隣の部屋から女性用の下着が風で飛ばされて来たんです。敷居の上の隙間からヒラッと…」

「へー…ラッキーじゃん!」

そう思うのは先輩だけです…

「後で郵便受けに返そうと思って紙袋に入れてリビングに置いておいたんですけど、そのまま忘れてバイトに行っちゃって、帰ったらヒロさんが居て…」

ヒロさんは凄く不機嫌な様子で、俺に怒鳴りつけてきたんだ。

「野分!テメー、変な妄想するのもいい加減にしろよ!この変態!!」

って…

その直後に下着の入った紙袋が俺の顔面を直撃した…

「俺、本屋に行ってくるから、頭冷やしとけ!」

ヒロさんはそう言って、走って出て行ってしまった。

茫然としているところに病院からヘルプが入ってそのままここに来ちゃったんだよね…

「ヒロさんにまた誤解されちゃったみたいなんです。」

「なるほどな…上條さんのことだから、今頃一人で悩んでるんじゃねーの?」

「えっ?」

「意を決してお前のために女の子用の下着つけてくれたりして♪」

ヒロさんが…わ〜〜〜〜っ///

「なにデレっとした顔してんだよ…これだから変態だって誤解されるんだ。」

「うっ…もう!先輩が変なこと言うからじゃないですかー!」

「上條さんがそんなことしてくれるなんてありえないって冷静に考えればわかるだろっ!」

…そうですね。俺がバカでした。

「そんな風にヒロさんには誤解されっぱなしで、ヒロさんの中で俺がどんどん変態キャラになっているような気がするんです。」

「気がするんじゃなくて、実際そうだろ。こっぱずかしい発言ばかりするし…」

「俺はヒロさんにカッコ良くて頼りがいのある大人の男だと思われたいんです!何とかして名誉挽回しないと…」

「プッ…アハハハ…くっだらねー!そんなことで落ち込んでたのか?」

やっぱり笑われた…

くだらないのは自分でもわかってるんです。背伸びをしたってしょうがないことだってわかってます。

だけど俺は…

大好きな人には少しでもカッコイイと思われたい…自慢の恋人だと思われたいんです。

「そんな顔すんなって!上條さんのことだからお前の変なとこも全部ひっくるめて好きなんだと思うぞ。」

変なところって…それはちょっと嫌なんですけど…

「ほら、そろそろ回診の時間だろ。行って来い!」

「はい。」

これだから先輩に話すのは嫌だったんだ。はーっと深い溜息をついて医局に向かった。
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