純情エゴイスト〜のわヒロ編3〜

□雨降る夜に
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Side 弘樹

仕事帰り、古本屋に寄ってみたら思いがけず珍しい本が手に入った。

これ、なかなか市場に出回らないんだよな。

ちょっと高かったけれど今買わないと二度とお目にかかれないような気がして、思い切って買ってしまった。

早く読みたくてうずうずしながら歩いていると…ポツリ…ポツリ…と冷たい水が落ちてきた。雨?

丁度コンビニの前を通りかかったので傘を買おうかと考えたが、この程度なら家までもつだろうと判断して早足で帰ることにした。

駅前通りを過ぎ、住宅街に入ると雨は次第に強さを増し…俺が走り出すと同時にザザーッと激しく振ってきた。

ヤベー、濡れる!

鞄と本の入った袋を両腕で抱え込むようにしながら近くのマンションの駐車場に駆け込んだ。

昼間暖かかったから今日は半袖シャツ一枚だ。コートやジャケットがあれば本を包んで走れるのに…

さっき傘を買わなかったことを悔やみつつ、どんよりとした空を見上げた。

タクシー呼ぶか…家まであと少しなのに…誰か知ってるヤツ通らねーかな…

そんなことを考えながら何となく本を袋から取り出して表紙を捲る。ちょっとだけ…雨もすぐ上がるかもしれないし、もう少しここで雨宿りしていよう。

活字を読み始めたら止まらなくなって、いつの間にか本の世界に没頭していった。




Side 野分

バイトからの帰り道、駅を出て暫く歩いたところで雨が降り出した。

最初は弱かったのに、いきなり滝のように振ってきたので慌てて近くにあったマンションの駐車場に駆け込んだ。

ビックリした〜。何とか雨を凌げる場所に入ったけれど、この雨すぐに止むのかなぁ?

降り続くようならびしょ濡れになるのを覚悟で家まで走らないと…

溜息をつきつつ、雲に覆われた空を見上げていると

「クシュン!!」

背後からクシャミの音が聞こえた。ビクッとして振り返るとそこにいたのは

「ヒロさん!?」

柱に寄りかかってヒロさんが本を読んでいた。

こんな所でヒロさんに逢えるなんて!嬉しくなって、急いでヒロさんの側に歩み寄った。

「ヒロさん!」

声をかけると、ヒロさんはハッとしたように本から顔を上げて俺の方に目を向けた。

「野分。何で俺がここにいるってわかったんだ?」

ヒロさんは不思議そうにそう尋ねると、嬉しそうに頬を綻ばせた。

「偶然です。雨宿りしようと思ってここに入ったらヒロさんのクシャミが聞こえたので。こんな所で逢えるなんてやっぱりヒロさんと俺は赤い糸で結ばれてるんですね♪」

「恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ!そっか…じゃあ、お前も傘持ってねーのか…」

ちょっと残念そうに本に目を向けて、それから空を見上げて小さく溜息をつくヒロさん…俺が傘を持っていればこんな顔させなくてすんだのに。

「俺、家まで走って傘取ってきます!」

「バカっ!そんなことして風邪ひいたらどうするんだよ。ハッ…ハッ…クシュン!!」

「ヒロさんの方が風邪ひきそうじゃないですかー!俺は丈夫なんで大丈夫です。」

そう言って走りだそうとしたら、ヒロさんに腕を掴まれてしまった。

「行くな!お前が行くなら俺も濡れて帰る!」

「ヒロさん…」

変な所で意地っ張りなんだから。そんな所も可愛いんだけどね。

ヒロさんを背後から包み込むように抱き締める。

「こんな所で何してんだよ///人に見られたら…」

「大丈夫です。手は出しません。風邪をひかないように温めているだけですよ。ほら、腕がこんなに冷たくなってる…」

そう言ってヒロさんの腕に手を添えると、ヒロさんは大人しくなって俯いてしまった。

ほんのりと薄紅色に頬を染めて俺の手をじっと見つめている。

首筋に鼻を寄せてヒロさんの匂いを嗅ぐと、ヒロさんはちょっと恥ずかしそうに俺の腕をキュッと掴んだ。
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