純情エゴイスト〜のわヒロ編3〜
□視線の先に
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昼下がりの研究室。いつものように宮城教授の授業資料のコピーを手伝っていると…
コンコンとドアをノックする音がした。
「どうぞ。」
声をかけると
「失礼します…」
おずおずと入ってきたのは、草間風斗。文学部所属の学生で草間園の野分の後輩だ。
「教授、ちょっと失礼します。」
「ん?ああ、また呼び出しか?」
教授は風斗にちらっと気の毒そうな目を向けて、コピー機の操作を続けた。
「そこに座れ。」
「はい…」
厳しい目で睨みつけると、風斗は緊張した面持ちでソファーに腰を下ろした。
「あの〜…俺、何かしましたか?」
「何かしただと…」
「ヒャッ…ご、ごめんなさい。今日は遅刻もしてませんし、授業中も怒られてないのに、授業が終わった途端に呼び出しとか…身に覚えがなくて…」
「ほう…身に覚えがないと…」
「草間く〜ん、君ヤバいよ。上條、相当ご機嫌斜めだぞ。あ〜…恐っ…」
宮城教授は冷やかすように身震いしてみせた。
風斗は黙ったまま俯いている。
「携帯出せ!」
「持ってません。」
「嘘つけ!さっきの授業中に俺の写真撮ってただろっ!」
「うっ…気がついてらしたんですか…」
「当たり前だろっ!」
「チョークが飛んでこなかったから気付かれてないものとばかり…」
「あの状況で携帯取りあげに行ったら他の学生に誤解されるだろーが。俺は男に好かれてるなんて思われるのはごめんなんだよ!」
ボカッ!!と風斗の頭を殴りつけると、風斗は痛そうに頭を抱えた。
「ごめんなさい。つい出来心で…」
風斗は渋々とバッグから携帯を取り出して俺の前に差し出した。
写真フォルダを開くと授業中の俺の写真が何枚も入っている。
「おっ!よく撮れてんじゃん。かみじょ〜先生カッコイイ♪」
いつの間にか背後に立っていた教授が画面を覗きこんできた。
「宮城教授…冷やかさないでください!」
「いいじゃん。たとえ男でも、学生に好かれるのは良いことだぞ。」
他人事だと思って…この人は…
「この写真、もう送ったのか?」
「へっ!?えっと〜…何のことでしょう?」
「とぼけるな!」
「はい…ここに来る前に…」
はーっと深い溜息をつくと、教授がまた割りこんできた。
「何なに?どこかのオーディションにでも写真送ったのか?」
「教授は引っ込んでてください。資料の準備、終わりませんよ。」
「はいはい…」
写真の送り先は…野分のところに決まっている!
「で、報酬は何なんだ?」
「抹茶白玉あんみつ生クリーム鯛焼き10個です♪」
ブッ殺す!!
保存されていた写真をブチブチと消去していると…
「あっ…」
野分の写真で手が止まった。草間園で撮ったのだろうか?野分は小さな女の子を抱っこして楽しそうに笑っている。
大好きな野分の笑顔…だけど…
「上條先生?」
「この写真、貰ってもいいか?…さっきの件はそれでチャラにしてやるよ。」
小さな声でそう言うと、風斗はぱぁっと明るい顔になって頷いた。
「はい!流石は草間先輩ですね♪先輩の写真撮っておいて良かった〜」
「プッ…かみじょ〜可愛い♪お前ら、付き合い始めて何年目だよ。」
宮城教授はプルプルと肩を震わせて笑っている。
そんなこと言ったって…野分に面と向かって写真撮らせてくれなんて恥ずかしくて言えねーし、そもそも写真撮る機会がねーんだよ!
ムスーっとしていると、携帯を操作していた風斗が顔を上げた。
「写真、送りました。」
「ん?鳴ってねーぞ?」
携帯の着信を確認して首を捻る。
「もうすぐ届くと思います。」
「あっ!届いた。サンキュ…って、あれ?このメール野分からだ…」
着信メールを開くと、さっきの野分の写真と一緒にこんなメッセージが表示された。
『ヒロさんが俺の写真欲しがってくれるなんて…すごく嬉しいです。ヒロさん、大好きです!』
なんだ…これ////
「おい!!テメー、何で野分に送ってんだよ!」
「だって、上條先生のアドレス知らなかったから。野分先輩から送って貰ったんです。」
「アドレスくらい俺に聞けよ!」
「そんなことしたら先輩に殺されます!」
「あーーーーっ!何で俺はこんな奴らと…」
最悪だ…
「草間園って面白いヤツが多いんだな。上條、楽しそう♪」
呑気にそんなことを言っている教授に頬を引きつらせながら、画面上で微笑んでいる野分の写真を保存した。