純情エゴイスト〜のわヒロ編3〜

□一足違いで一大事
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自転車を漕ぎながら、灯りのついた部屋を見上げで嬉しくなった。

良かった〜ヒロさんも帰ってきてるみたいだ。

時刻は午後8時。久しぶりに起きているヒロさんに会える。

疲れていたはずなのに、もうすぐヒロさんに会えると思うだけで元気が湧き出てペダルも軽くなる。

駐輪場に自転車を止めて部屋に急いだ。早くヒロさんに会いたい!

エレベーターを降りて、部屋の前まで行くと軽く深呼吸をした。ちょっと落ち着かないと、ヒロさんを見た途端に理性が吹き飛んで襲ってしまうかもしれない。

それくらい、今の俺は深刻なヒロさん不足で…どうしよう…ヒロさんに触れたい…早く抱きしめたい。

落ち着け…時間はたっぷりあるんだ。まずは挨拶して、お風呂にも入らないと。3日も洗っていない身体でいきなり抱きついたりしたらヒロさんに申し訳が無い。

緩んだ頬を引き締めて、鍵を差し込むと…開いてる…

ヒロさん…鍵のかけ忘れには注意するようにいつも言っているのに…

無防備な恋人に思わず溜息が洩れる。そんなところも可愛いんだけど、これだけは改善してもらわないと。

「ただいまです。」

あれ?いつもならリビングの方からヒロさんの「お帰り」が聞こえてくるのに、今日はしーんとしている。

まだ8時なのに、もしかして本を読みながら寝ちゃったとか?

リビングの扉を開けながら声をかける。

「ヒロさん?ただいまです…あれっ?」

ソファーの上には本とブランケットが無造作に置かれている。

ヒロさん、トイレかなぁ?それとも部屋に本を取りに行っているのかな?

「ヒロさん?」

ソファーに近づいてやっとただならぬ状況に気付いた。途端に心臓が凍りつくような不安が俺を襲う。

ソファーの周りには本が散らばっていて、テーブルに置かれたコーヒーは床に零れている。そして、床には僅かな血痕が…

「ヒロさん!!」

慌ててヒロさんの部屋のドアを開けた。いない…

トイレにもお風呂にもヒロさんの姿はなくて…

どうしよう…警察に連絡した方がいいのだろうか?だけど、大事になったらヒロさんの立場が…でも、こうしている間にもヒロさんは危険にさらされているのかもしれない。

途方にくれながらも、テーブルに置き去りにされたヒロさんの携帯を掴んで外に飛び出した。

ヒロさんを探さなくちゃ!おっと…鍵はちゃんと掛けないと。こういうときは冷静にならないとダメだ。

階段を駆け下りながら、携帯の履歴に残っている番号に電話をかけてみた。

『もしも〜し!かみじょ〜?こんな時間に何か用か?』

「宮城教授ですか?草間です!」

『草間君?どうしたの?そんなに慌てて』

「ヒロさんがいないんです!」

『ちょっと落ち着いて!上條なら本屋にでも出かけてるんじゃないか?大人なんだし、まだ9時にもなってないんだから心配することないよ。』

「そうじゃなくて…誰かに襲われて連れ去られたような跡があるんです!何か心当たりはありませんか?」

『マジかよ…別に変わった様子はなかった…いや、今日は大事な用があるから定時に帰るって言ってたな…』

大事な用?今日は急に帰宅できることになったからヒロさんは俺が帰ることを知らなかったはずだし…用事って何だったんだろう…

「ありがとうございます。俺、探してみます!」

『こっちも古本屋とか心当たりに電話してみる。何かわかったら連絡するよ。』

「はい!お願いします!」

外に出るとさっき来た道とは別の方向に走った。いくら浮かれていたとはいえ、ヒロさんとすれ違っていたら気付くはずだ。

辺りは人気が無く物音もしない。車で連れ去られたとしたらお手上げだ…

何か手掛かりになるような物が落ちていないかと目を凝らしつつ、次の番号にかけてみた。

『弘樹?どうした?』

「あっ、宇佐見さんですか?草間です。」

『草間君?何かあったのか?』

「ヒロさん…ヒロさん知りませんか?」

『子供のころから良く知っているが…』

「そうじゃなくて…えっと…今何処に居るかわかりますか?」

『家にいないなら本屋じゃないのか?』

落ち着き払った声でそう言われると、本屋にいるような気になってしまう。だけど状況から察してそれは無いと思う。

宇佐見さんに説明すると、

『そう言えば、アイツ手や首筋に絆創膏何枚も貼ってたな…草間君につけられたのかと思って何も聞かなかったんだが…』

「それ、いつの話ですか?」

『今日の昼ごろ。』

ヒロさん…一体何があったんですか…

「わかりました。もう少し探してみます。」

マンションの周辺や近くの本屋を探して回ったけれど、ヒロさんはおろか、それらしい手がかりも見当たらない。

へとへとになってマンション裏の公園のベンチに腰を下ろした。

もう1件電話してみよう…

ブルルルル…お尻の下に振動を感じて苦笑してしまう。これ、俺の番号だ…

改めて見ると、ヒロさんはあまり電話をかけていないことがわかった。最新の宮城教授の番号も3日前の日付になっている。

俺のは1週間前。帰る予定だった日に帰れなくなってメールをしたら、ヒロさん励ましの電話をくれたんだった…

ヒロさん…どこに行っちゃったんですか?ヒロさん…

こうしている間にもヒロさんが危険に晒されているかもしれないのに、どうすることもできない自分が情けない。

一度帰って状況を整理して、もう一度探してみよう。明日の朝までに見つからなかったら警察に届けないと…
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