純情エゴイスト〜のわヒロ編3〜
□春の心は千変万化
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講義を終えて研究室に戻ると、宮城教授が待っていた。
俺に気付くとすぐに手にしていたチラシをテーブルの上に戻して、咥えていた煙草を灰皿に置いた。
「おはよう。今日は1限からか。」
「おはようございます。何か用ですか?」
「授業で使う資料のコピー、手伝って貰おうと思って♪」
教授はニコニコしながら、クリアファイルに入った資料を振って見せた。
論文の手伝いならまだしも、授業で使う資料のコピーを頼むとか…
「宮城教授…そんなの見ながら俺を待っている時間があるならコピーくらい終わらせたらどうなんですか?」
思い切り眉間に皺を寄せてそう言うと、教授はわざとらしく両手を合わせて拝むように頼んできた。
「そんなこと言わずに頼む!この資料が無いと午後の講義が…午前中に論文資料も揃えたいし、時間ないんだよ。お前だけが頼りなんだ!」
経験上何を言っても引きさがりそうにないとわかっているから、仕方なく手伝うことにした。
「はいはい…今回は手伝いますけど、こういうのは前もって準備するようにしてくださいね。」
「かみじょー!やっぱりお前は頼りになるな。流石は俺の部下だ!」
こんなことで頼りにされたくないんだけど…
コピーされた資料を揃えていると、コピー機を操作しながら教授が話しかけてきた。
「お前、1限の講義多いよな〜。教務ももっと考えて時間割組めばいいのに…」
「俺は別に構いませんけど。講義が早い時間に終われば、午後は自分の仕事に集中できますし。」
「お前はそれでいいだろうけど、学生が気の毒だ。せめて1限の遅刻は大目に見てやったらどうなんだ?新入生、ビビってんじゃないの?」
「授業に遅れるなんて言語道断です。」
「はいはい…相変わらず固いな〜。眼鏡外して普通にしてれば可愛いのに…」
「宮城教授!」
睨みつけると、教授は視線を反らしてテーブルに置かれたチラシに目をやった。
「あれ、サークルの勧誘だろ?いいよな〜学生に間違われるくらい若く見えて。」
「全然良くありません!!」
登校時は眼鏡をかけていないから学生と間違われて正門付近でサークルの勧誘に巻き込まれてしまう。
チラシを差し出されると避けられずについ受け取ってしまい、テーブルの上には様々なサークルのチラシが溜まっていく。
登校時も眼鏡かけるか…でも、朝は寝坊してバタバタすることが多いから持ち帰って忘れでもしたら大変だし…
入学式から始まってそろそろ一週間…落ち着くまではもう暫くかかりそうだ。
「そう言えば今年の新入生代表、文学部なんだってな。お前、もう会ったか?」
「さあ?今のところ特に目立ったヤツは見かけてませんが…」
入学式には出てないから顔も名前も知らねーし。だけど、優秀なヤツなら教えがいがありそうだ。
「俺もよく知らねーんだけど、頭だけじゃなくて顔も良いらしくておまけに金持ちなんだと。女の子達が目の色変えてたぞ。」
「へー、そうなんですか。」
そういうのには別に興味ないんだけど…
なんとなく幼馴染の顔が脳裏に浮かんだ。ああいう面倒臭い性格でないことを祈る。
「忍ちんみたいな子だったらどうしよう?」
ああ、教授はそっちの心配してるのか。
「宮城教授にお任せします。」
「かみじょ〜!」
「はい、資料揃いましたよ。俺、自分の仕事があるので教授もさっさと論文の資料探ししてください!」
資料の束を突きつけて、教授を部屋から追い出した。
俺も次の授業の準備しねーと…履修登録が終わるまではテキストがないから資料を準備するのに時間をとられてしまう。
自分の仕事も溜まっているのにこれ以上宮城教授に付き合っている暇は無い。机に向かうと気持ちを入れ替えてパソコンのキーを叩いた。