純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□自慢の彼は秘密の彼氏
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チャイムの音…廊下から聞こえてくる学生達の話声…
もう終了時刻か…パソコンのキーを打つ手を止めて、時計を見ると12時を過ぎたところだ。
ちょっと休憩。昼飯にしよう。
鞄から弁当を取り出す。今日のランチは野分の手作り弁当だ。
ローテーブルに弁当を置いて、コーヒーを淹れていると…
(コンコン)ノックと共に宮城教授が入ってきた。
「かみじょ〜、弁当一緒に食べよー。」
教授は重箱の入った風呂敷包みを抱えている。教授も今日は恋人の手作り弁当のようだ。
「どうぞ。コーヒー飲みますか?」
「ああ、頼む。」
教授はキャスター付きの丸椅子を持ってきて腰掛けると、テーブルに重箱を広げ始めた。
俺もコーヒーを並べて、ソファーに腰を下ろす。
「おっ!上條も今日は愛妻弁当か。」
弁当箱の蓋を開けると、教授は羨ましそうに俺の弁当を眺めた。
「教授のは相変わらずキャベツたっぷりですね。いくらキャベツが好きだからって偏り過ぎじゃないですか?」
「俺はキャベツが好きだなんて言った覚えはないんだけどな…」
ぶつぶつ言いながらも、教授は重箱に盛られたキャベツ炒めを微笑ましそうに見つめている。
味や見かけが良いのに越したことはないけれど、好きな人が作ってくれたものなら何だって美味しく感じるものだ。
『いただきます』
教授と声を揃えて恋人に感謝しつつ、箸を取った。
(コンコン)
食べようとしたところで、誰かが扉をノックした。箸を置いて
「どうぞ。」
と声をかけると
「失礼します!」
と、学生達が入ってきた。
最初に入ってきたのは文学部3年の加藤。宮城教授のゼミの学生で、明るく好奇心旺盛。授業中は一つに束ねている髪を下ろしてきたから一瞬誰だか分らなかった。手にはマイクが握られている。
その後に続いて、カメラを抱えた男子学生と、メモ用紙を手にした女子学生が2人入ってきた。3人とも一般教養で見かけたことはあるが、他の学部の学生で、会話をした記憶はない。
「お前達、何しに来たんだ?」
いきなりカメラやマイクを持って入って来くるものだから面喰ってしまう。
「私達、放送研究部です!『突撃!教授の昼ごはん♪』というシリーズ企画があるんですけど、宮城教授の取材をしようと思って研究室に行ったらいらっしゃらなかったのでこちらかな〜と思って…」
「えっ!?俺?」
教授はキョトンとした顔をしている。
「良かったー。宮城教授を発見しました!」
加藤はカメラに向かって実況をしている。
「これって、撮影してどうするんだ?文化祭で使うとか?」
宮城教授の質問に、加藤はにこにこしながら答えた。
「昼時の報道番組の真似ごとみたいなもので、レポートの練習なんです。よく出来たら研究発表で使うかもしれませんが、あまり気にしないでください。」
「ああ…そういうことか。」
「ちょっとだけ、お付き合いいただけますか?」
「別に構わないけど、俺の弁当は凄いぞ…」
キャベツ弁当を見て加藤がどんなリアクションをするのか…くだらないけど、なんだか面白そうだ。
「わー♪宮城教授のお弁当、三段重じゃないですかー!」
テーブルに並べられた重箱を見てテンションが上がったのか、学生達はワクワクした様子でこっちに近づいてきた。
「宮城教授のお弁当は豪華三段重です♪中身は何が詰まっているのでしょうか!」
加藤がカメラに向かって実況すると、カメラ担当の学生が教授のお弁当にズームを当てる…
「えっ!?…えっとー、これは…キャベツ…ですか?」
一段目、キャベツ炒め。二段目、キャベツの千切り。三段目、ご飯と梅干。
目が点になっている学生達を見て、思わず顔を背けて吹き出した。
「だから俺の弁当は凄いって言ったじゃないか。キャベツたっぷりだけど結構いけるぞ。」
「あ…あはは…宮城教授はキャベツがお好きなようです。キャベツはビタミンが豊富で優れた栄養素を持つ食品なんですよね?」
「おっ、そうなのか?」
「お弁当は教授が作られているんですか?」
「いや、同居してるヤツが作ってくれるんだ。」
「キャー♪もしかして、彼女さんの手作りですか?宮城教授の意外な一面、発見です!」
「彼女じゃなくて…学部長の息子さんなんだか…」
「へ…!?」
関わり合いにならないように目を背けていると、加藤がもの凄いスピードで俺のところに駆け寄ってきた。
「上條先生、学部長の息子さんて教授の離婚された奥さんの弟さん…ですよね?同居してるってどういうことなんですか?」
学生達も離婚問題にはそれなりに気を使うらしく、こそこそと質問してきた。
「学部長が息子を一人暮らしされるのが心配で、よく懐いている宮城教授の所に預けたみたいだけど。」
俺の口から恋人だとは言えるわけもなく、当たり障りのない答えを口にする。
「わー…元義弟でしかも上司の息子と同居とか…教授かわいそう〜」
「聞こえてるぞ!かわいそうで悪かったな!」
宮城教授はちょっと不満そうにキャベツを突いている。
「あはは…ごめんなさい。みんなちょっと…」
加藤は他のメンバーを周りに集めて何やら相談し始めた。