純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□ちょこっとデート
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穏やかな日曜日の昼下がり、先週まで降り続いていた雨も上がり窓の外には青空が広がっている。
バルコニーでは二羽の雀がチュンチュンと戯れ、キッチンからはコーヒーの香ばしい匂いが漂ってくる。
こんなに長閑な日は久しぶりだし、珍しく野分とも休日が重なった。絶好のデート日和だ。
それなのに…
目の前に積まれた紙の山を見て溜息をつく。
前期試験の答案用紙にレポート、就活生に依頼された推薦書…夏期休暇を控えたこの時期、本業の研究以外の仕事が山積みになる。
大学では研究を優先したいから、授業関連の仕事は自宅に持ち帰ってすることにしているのだが、休日まで潰さないと間に合わない状況だ。
レポート課題を減らすという手もあるのだが、仕事に私情を挟む訳にはいかない。真面目に文学を学んでいる学生達のことを考えると教育者である俺が手を抜くことはできない。
黙々とテストの採点をしていると、野分がコーヒーを持ってきてくれた。
「お疲れ様です。あまり根を詰めると身体に毒ですよ。程度に休憩してくださいね。」
「わかってる。コーヒー、サンキュ。」
右手に赤ペンを握ったまま、左手でマグカップを受け取った。
「俺もここに居ていいですか?」
「リビングに居るのに俺の許可取る必要ないだろ。」
「ヒロさんの邪魔になるようなら部屋に行きますので言ってくださいね。」
「大丈夫だ。嫌だったら俺が部屋に行くし…」
どこにも出かけられないけど、せめて野分の姿が見えるところにいたくてリビングで仕事をしているのに…何でコイツは気付かないのか…
少しだけイライラしながら、答案用紙に特大のペケをつけた。
「あれ?この答案…酷いですね…」
野分に言われて、改めて答案を見ると確かに間違いだらけで、あっている問題の方が少ない。
高橋美咲…またアイツか…ふーっと溜息が洩れる。
「25点、また追試だな…」
同じように教えているはずなのに、なぜこうまで差がでるのか…俺の教え方が悪いのか?いや…勉強しないアイツが悪い!
追試用の問題を考えて、再度採点する羽目になるこっちの身にもなって欲しい。
採点済みの山に答案用紙を投げて、次の答案の採点を始めたところで赤ペンのインクが切れてしまった。
書類ケースから新しいペンを出そうとして、今使いきったのが最後の一本だったことに気付く。
「ヤベー、ペン切れた〜10本入りの業務用買ったのに…」
「ヒロさんは採点が丁寧だから、インクもすぐになくなっちゃうんですね。俺のペン、使いますか?」
「いい。どうせまたすぐ無くなるから、袋入りの買ってくる。」
立ち上がると、野分も一緒に立ち上がった。
「買い物に行くなら、俺も一緒に行きます。」
「ペン買いに行くだけだぞ。寄り道する時間とかねーし、お前は家でゆっくりしてろよ。」
「それでもいいです。ヒロさんと一緒に歩けるだけで俺は楽しいです。」
「バカ///」
恥ずかしい台詞をさらっと言ってしまうところは昔からちっとも変わらない。いい加減慣れればいいのに、一々ドキドキしてしまう自分自身も恥ずかしい。
財布と鍵をトートバッグに入れて肩から下げると、野分を連れて部屋を出た。