純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□笑顔が見たいから
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風呂上りにTVを見ながら寛いでいると、野分がやってきた。
晩飯の後、部屋に籠って何かやっていたけど区切りがついたようだ。
「ヒロさん。」
「なに?」
TVから目を放して野分の方を向くと、野分は紙袋を差し出してきた。
「これ、ヒロさんにあげます。」
「なに?プレゼント?今日って何かの記念日だっけ?」
「いえ、ただ俺がプレゼントをしたい気分なだけなので気にしないでください。」
プレゼントをしたい気分って?機嫌がいいってことか?それにしては真面目くさった顔してるけど…
「じゃあ遠慮なく貰っとく。サンキュ。」
紙袋を受け取って中を覗くと、一冊の本が出てきた。先週発売されたばかりのベストセラー作家の小説だ。
「お前が本くれるなんて珍しいな。」
「ヒロさん、本好きだから。喜んで欲しくて選びました。」
「さっそく読ませてもらうよ。ありがとな。」
礼を言うと、野分はちょっと躊躇ったように微笑んだ。
「お前、なんだか元気がないみたいだけど、寝不足か?」
「ああ…ちょっと疲れてるだけです。大丈夫なので気にしないでください。」
「早めに寝た方がいいぞ。明日からまた連勤なんだろ?」
「はい…」
野分が部屋に戻っていったので、TVを消して、貰ったばかりの本を広げた。
野分から本のプレゼントなんて初めてだ。どういう風の吹きまわしなんだろう?
不思議に思いながらも、本の世界に没頭していった。
「ただいま。」
「お帰りなさい!」
リビングから聞こえる野分の声に心が弾む。
野分と一緒に晩飯を食べるのは5日ぶりだ。
真っ暗な部屋に帰宅するのに慣れてしまったから、部屋に明かりが付いているだけで幸せな気分になってしまう。
キッチンで料理を作っている野分に「お疲れ〜」と声をかけて、着替えをしに自室に入った。
洗面所で手を洗ってキッチンに行くと、テーブルの上に美味しそうな料理が並んでいた。
「おっ!今日も美味そうだな。」
「今お茶淹れますから座っててください。」
「うん。」
食卓に着くと、箸の右側に見覚えのある紙袋が置かれていた。これって俺がよく行く古本屋の袋だよな…
「これ何だ?」
「本、買ったんですけど、良かったら読んでください。」
「お前は読まねーの?」
「今は読む時間ないので、ヒロさん先に読んでください。気に入ったらヒロさんにあげます。」
「あげるって…いいのか?」
折角買ってきたのに読まないとか…変なヤツ。
紙袋を開けると、年代物の文芸書がでてきた。既に持っている本だけど、これは初版本だ…
こういうのってなかなか出てこないんだよな。
「これ、高かったろ?半分俺が出すよ。」
「大丈夫です。俺が気に入って買っただけなのでヒロさんが気を使う必要はないです。」
「でも…」
「気にしないでください。ご飯、食べましょう♪」
野分に促されて晩飯を食べ始めた。話題はいつの間にか野分の病院の話に変わっている。
小児科の子供達の話を聞いていると微笑ましくなって、本の一件は脳裏から消えていった。