純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜

□新たな恋の始まり
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「俺、そろそろ行きますね。」

野分は起き上がると、床に脱ぎ棄ててあった服を慌ただしく着込んだ。

ベッドに横たわったままぼんやりと野分が着替えるのを見ている俺に、野分は愛おしそうな眼差しを向ける。

服を着てしまうとゆっくりとこっちに近づいてきて、唇に触れるだけの軽いキスをした。

「行ってきます。」

そう言って俺の髪を撫でると、ボストンバッグを持って部屋から出て行ってしまった。

まだ、ぼーっとしてる…

俺が好きなのは秋彦だったはずなのに、どうしてこんなことになっているんだろう?

10年越しの片思いから失恋してまだ一カ月も経っていないのに、野分のことが気になって仕方がなくなって、いきなり告白されて…

まだ付き合ってもいないのに、流されるままに野分に身を委ねてしまった。

野分のことは好き…なのだと思う。アイツに抱かれても嫌じゃなかったし…むしろ嬉しくてずっとこうしていたいと思った。

でも、まだお互いに相手のことを良く知らなくて、男同士で、年下で、何の迷いもなく俺が『受け』って…

嬉しい半面、物凄くムカつく!複雑な気分だ。

ゆっくりと身体を起こすと腰がズキズキと痛んだ。

アイツ、初めてのくせにこんなになるまでやりやがって!

痛む腰を摩りながら浴室に向かう。

『好きです。』

『今まで想うことだけだったのならこれからは俺に想われてください。』

それは、俺がずっと秋彦に言いたくて、言えなかった言葉…プライドが邪魔して素直になれず、思っていることの半分も伝えることができなかった。

野分はそんな俺とは正反対だ。気持ちを真っすぐにぶつけてくれる。

直球すぎて戸惑ったけれど…嬉しかった。

熱いシャワーを浴びていると野分の温もりを思い出す。熱くて激しくて…色んなヤツとやったけど、こんなに満たされた気持ちになれたのは初めてだ…

いつの間にこんなに好きになってしまったんだろう?気が付けば野分のことばかり考えている。

なんだか秋彦に申し訳ない気分だ…あんなに好きだったのに、こんなに簡単に過去の出来事になってしまうものなのだろうか…

お湯を止めて、タオルで身体を拭きながら脱衣所を出ると、電話の音が聞こえてきた。

「もしもし。」

受話器を取ると

『弘樹?さっきは邪魔したみたいですまなかったな…』

秋彦…そう言えば、昼間秋彦が尋ねて来てくれたのに野分に拉致られてそれっきりだった。

「心配して来てくれたのに、ごめん。」

『もうお前の家に避難するのはやめた方が良さそうだな。』

「別にそんなこと…あ、いや…そうして貰えると助かる…」

『晩飯はちゃんと食べろよ。』

「わかってる。保護者みたいなこと言うなよ。お前こそ、原稿は終わったのか?」

『原稿…そんなものあったかな…』

「秋彦、お前少しは真面目に仕事と向き合ったらどうなんだ?」

『ハハ…その調子なら心配はなさそうだな。それじゃ、また学校でな。』

「ああ。サンキュ。」

普通に話せた…

なんだか秋彦のことも吹っ切れたような気がする。認めたくないけど、野分のお陰かな。

部屋着を着ると、野分が差し入れしてくれた食料を冷蔵庫から取り出して電子レンジで温めた。

好きな食べ物とか教えたことないのに、野分は俺の好みを察してくれる。

今朝も、徹夜明けでぐったりしていたところにヒヤロンを買って来てくれて感動しそうになったっけ…

ゆっくりと回転する惣菜を眺めながら、昼間のことを思い出す。

そう言えば俺、野分に好きだって言ってねーな…告白の返事だってまともにしていない。

あれ?これって付き合い始めたことになるのか?やっただけ?

頭が混乱してる。野分に確認したいけど、こんなこと恥ずかしくて聞けるわけがない///

こんなことなら、俺もちゃんと気持ちを伝えれば良かった。これじゃ、秋彦の時と変わらない…

今度野分に会ったら、少しは意思表示しないとな。

って…アイツ次はいつ来るんだ?

改めて気付いた…

俺、野分の連絡先も住んでる所もバイト先も知らない…もしも、このまま野分が来なくなってしまったら…

野分のことが好きだと自覚した途端に急に不安になってきた。早く会いたい。

片想いもしんどかったけど、両想いでも切なくなることってあるんだな…
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