純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□ヒロさんの悩み事
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「…それで、子供達に捕まっちゃって大変だったんです。…って、ヒロさん?聞いてますか?」
さっきまで俺の話を楽しそうに聞いてくれていたのに、俺がお茶を入れている間にいつの間にやらヒロさんは箸を動かすのを止めてぼんやりとしていた。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた。」
本を読んだり、論文を書いたりしている時に話を聞き流されてしまうのにはもう慣れっこだけど、食事中に意識が飛んでるのは珍しい。どうしたんだろう?
「大丈夫ですか?どこか具合が悪いんじゃ…」
「うん…なんだか食欲なくて。」
ヒロさんのおでこに手をあててみた。熱はないみたいだけど…
「ちょっと疲れてるだけだから心配すんな。」
そう言ってヒロさんは俺の手を振り払った。顔が少し赤いけど、照れてるだけかな?
「今夜は早めに休んだ方がよさそうですね。」
「そうだな。悪いけどこれ明日食べるから冷蔵庫に入れといてもらえるか?」
「はい。具合が悪いようならすぐに声をかけてくださいね。」
「わかった…」
ヒロさんは立ち上がると、自分の部屋に行ってしまった。
疲れてるだけって言ってたけど、なんだか元気がなかった。心配だなぁ…
そう言えば、この前病院に着替えを届けてもらった時もなんとなく様子がおかしかった。
ヒロさん、津森先輩と一緒にいたけど…先輩の話にも上の空だったみたいだし、俺が声をかけても一瞬気が付かなかったみたいではっとしたような顔をしてたっけ。
荷物を俺に押し付けてさっさと帰ってしまったから、何か嫌なことでもあったのかなと思ってメールをしてみたらいつも通りにそっけない返事が返ってきたから、そんなに気にしてなかったんだけど…
そんなことを考えながら後片付けをしていると、ドアの開く音がして廊下をペタペタと歩く音が聞こえてきた。
キッチンのドアを開けてみるとパジャマ姿のヒロさんがタオルを片手に歩いていた。
「ヒロさん?お風呂入るんですか?」
「うん。」
「お風呂で寝ちゃダメですよ!」
「わかってるって。」
心配だから俺も一緒に入ろうかな…なんて、そんな雰囲気じゃないか…
ヒロさん何か悩んでるみたいだ。俺に話してくれればいいのに。俺には言えないことなのかなぁ…もしかして原因は俺!?
気になるけど、今はそっとしておいた方がよさそうだ。しばらく様子を見てみよう。
見ていたTVがCMに入ったところでふと時計を見ると、ヒロさんがお風呂に入ってから大分時間が経っていることに気が付いた。
まさか、お風呂の中で寝てるんじゃ…
慌ててソファーから立ちあがって浴室に向かうと、ヒロさんは脱衣所の鏡の前で歯ブラシを握ったまま溜息をついていた。
「ヒロさん、大丈夫ですか?」
「野分?ごめん、俺もう寝るから風呂入っていいぞ。」
「もしかして…虫歯ですか?」
「違げーよ!こう見えても俺は今まで虫歯になったことねーんだからなっ!」
ヒロさんは俺を怒鳴りつけると、不機嫌そうに部屋に戻って行ってしまった。
本当に、どうしたんだろう?