純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜

□ショートバケーション
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弾む足取りで階段を駆け上がり、大好きな人の部屋に向かった。

鍵のかかっていないドアを開いて、部屋に入る。

「ヒロさん!」

「野分?」

本を開いたままキョトンとした様子で俺を見ているヒロさんに飛び付いた。

「野分?…く…苦しい!離せ〜!」

暴れるヒロさんから慌てて手を放す。

「ヒロさん、俺、志望校に合格しました!」

「合格…って…おい!テメーいつ試験受けたんだ?仮にも俺はお前の家庭教師なんだから、試験日くらい報告しろよ!」

「すみません。ヒロさんに心配かけたくなくて…」

「で、何処の大学受けたんだ?」

ヒロさんには最終的な志望校は内緒にしておいた。まだ、迷っているからと言ってはぐらかす俺に、ヒロさんはしつこく聞かず「じっくりと考えろ」と言ってくれたんだ。

「K医科大学です。」

大学名を告げると、ヒロさんは目を見開いて固まってしまった。

「ヒロさん?」

「野分…お前、福祉系の大学志望って言ってたよな?」

「はい。」

「なのに、なんで医大受けてんだよ!」

ヒロさんは眉間に皺を寄せて俺を睨みつけた。

「ごめんなさい。俺の夢は子供達を笑顔にしてあげられるような人になることで、心のどこかでずっと小児科医に憧れていたんです。でも、俺は中卒だしお金もないので医大になんて入れるわけがないと諦めていました。」

ヒロさんは俺の目をじっと見ながら話を聞いてくれている。

「でも、ヒロさんに出会って少しずつ考えが変わってきたんです。ヒロさんは自分の夢に向かって真っすぐに一歩づつ前に進んでいて、俺もヒロさんみたいになりたいと思いました。」

ヒロさんは一足先に論文を提出して大学院への進学を決めていた。やっぱりヒロさんは凄い…

「ヒロさんに家庭教師をしていただいて、大検に合格して少しだけ自信がつきました。それに、国立なら医大でも費用が少なくて済むこともわかったんです。もちろん福祉系にも興味はあるんですけど、一番やりたいことに挑戦してみようと思って医大を受けました。」

話が進むにつれてヒロさんの眉間の皺は消え、今は嬉しそうな表情に変わっている。

「そっか…わかった。怒ったりして悪かったな。合格おめでとう!」

滅多に見せてくれない優しげな笑顔を向けられて、嬉しさが込み上げてくる。

「ありがとうございます…」

もう一度ヒロさんをギュッと抱きしめた。ヒロさんも拒むことなく俺の背中に手を回してくれた。

ヒロさんの温もりを感じながら、心の中で呟いた…あなたに出会えて本当によかった。
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