純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□野分の潜入作戦
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怪我をして救急搬送されてきた子供の手当てを終えて、時計を見るとまだ午前10時だった。
仕事中は診察に集中しなければと思いながらもつい時間が気になってしまう。
今日は午後から休みの予定で、急患が無ければ12時半で帰宅できる。
あと2時間半…気合入れてやらないと。
そう思っていた矢先にまた急患を告げる電話が鳴った。看護師さんが電話対応に追われている。
今の時期は寒暖差が激しくて体調を崩す乳幼児が多い。それに、春は眠くなる季節だから母親がちょっとうとうとしている間に怪我をする子供も多いようだ。
インフルエンザの時期程ではないけれど、そこそこに忙しい。定時で上がれるといいけど…
もう一度時計に目をやって溜息をついた。
午後1時を少し過ぎたところで、やっと病院を出ることができた。
やっぱり定時には上がれなかったけれど、遅くならなくて良かった。
帰りがけにロッカールームで、津森先輩からムースを借りて髪型をちょこっと変えてきた。
マスクも付けて準備万端だ。
昼食を摂る間も惜しんで、真っすぐにM大に向かう。
どうして、こんなことをしているのかというと…ヒロさんが気になるから。
毎年4月になると、新入生が入って来てヒロさんが担当する学生の顔ぶれが変わる。
その中にはヒロさんに目をつける学生がいるかもしれない。俺みたいに一目惚れする学生もいないとは限らない。
大学では鬼の上條って呼ばれて恐れられているみたいだけど、それでもヒロさんは人気がある。
残業で持ち帰ってくる提出物の量からしてヒロさんの講座を受講している学生数は多いようだし、バレンタインにもチョコを沢山もらっていた。
ヒロさんは賄賂チョコとか言って受け取らないでくれているけど、それでも勝手に置いて行く学生も多いらしくて…そういうのは絶対に本命チョコだと思う。
あんなに可愛くて、無防備なのに本人に自覚がないから余計に心配になってしまう。
それで、毎年イライラしたり悶々したりしてしまうから、今年は思い切って潜入調査をする計画を立てた。
M大では今週から履修登録前の仮授業が始まっている。今日はそこに紛れ込んでさり気なく周りの学生達をチェックするつもりだ。
それに、授業をするヒロさんが見られるのも楽しみでワクワクする。
自転車のスピードをいつもより少しだけあげて、M大に急いだ。