その他いろいろ

□母の日に感謝を込めて
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リビングで読書をしていたら、電話が鳴った。

丁度物語が佳境に入ったところで今は電話に出る気にはなれない。

固定電話にかけてくるなんてどうせ何かの勧誘か実家くらいだ。急ぎの用なら携帯にかけてくるだろうし…放っておいていいか…

無視して読書に集中しているうちに呼び出し音は鳴りやんだ。

気にせずに読み進めていると、今度は携帯が鳴りだした。

「あ〜っ!もう!こんな時間に誰だよ。」

仕方なく着信ボタンを押すと、電話の向こうから一番面倒臭い人物の声が聞こえてきた…

「ヒロちゃん?まだお家に帰ってないの?もう夜よ。」

ババァ…空気読めよ…

「何か用?」

『草間さんから花束いただいちゃった♪お礼の電話をしたかったんだけど留守だったからこっちにかけたの。』

「花束?なんで野分が…」

『今度の日曜日、母の日でしょ。それで、カーネーションを贈ってくださって。素敵なメッセージカードまで付いてるのよ♪』

そうか…母の日ってこの時期だっけ。それにしても野分のヤツいつの間に…

「それは良かったな。」

『草間さん、お忙しいの?』

「今夜帰ってくるはずなんだけど、何時になるかわからない。」

『そうなの。残念…じゃあ、ヒロちゃんからお礼言っておいてね。』

「わかった。じゃあ、切るから…」

『ちょっと待って!』

まだ何かあるのかよ。こっちは今電話どころじゃねーんだけど…

ソファーに置きっぱなしになっている本が気になってうずうずしてしまう。

「なに?」

『秋彦君からも苺貰っちゃった。いつもお世話になってますって。』

「はぁ…」

『秋彦君、毎年何か送ってくれるのよね〜』

秋彦も母さんも…俺の知らない所で果物の送り合いするのはいい加減やめてもらいたい。

秋彦のヤツ、母さんに対しては愛想がいいし、物腰も丁寧だから気に入られてるんだよな…比べられるこっちの身にもなって欲しい。

「で、秋彦にも礼言っとけばいいのか?」

『秋彦君には電話してあるわ。』

「じゃあ何なんだよ?」

『ヒロちゃんは?』

「え?」

『ヒロちゃんからは母の日のプレゼントないの?』

「はあ!?んなもん、小学校まででいいだろ!」

『え〜、でも草間さんも秋彦君も小学生じゃないわよ。』

まったく、ああ言えばこう言う…

「毎年してないんだから、今年もする必要なし!わざわざ催促の電話してくんなよ。」

『もう!そんなんだと、女の子にモテないわよ!こんな無愛想な息子を持って…母さん、なんて不幸なのかしら…』

「はいはい。無愛想な息子で悪かったな。俺、今忙しいからまたな。」

通話終了ボタンを押して携帯を投げたした。

ムカつく!!

野分と秋彦の所為でとんだとばっちりを受けてしまった。

本を開いて続きを読みだしたものの何となく落ち着かず集中できない。仕方がない、続きは今度にするか。

本棚に本を戻していると野分が帰ってきた。

「ただいまです。」

「おかえり。」

「ヒロさん、会いたかった〜」

帰ってくるなり抱き締められてしまった。3日前に病院で会ったばかりなのに…

でも、こうやって嬉しそうに抱きつかれるのも悪くないな…

「おい!いい加減、離れろ!」

本当はもう少しこうしていたいけれど、そんなのはバカップルみたいで恥ずかしい。

野分を押しのけると、野分はちょっと残念そうに苦笑した。

「さっき母さんから電話があった。花束のお礼言ってたぞ。」

「ああ、もう届いたんですね。」

「お前いつの間に花なんて贈ってんだよ。」

「勝手なことしてしまってすみません。バイトで手が空いた時に発送したんです。でも、ヒロさんのお母さんには本当に感謝してるんですよ。」

「まあ…喜んでたからいいけど。お前毎年、母の日とかやってんのか?」

「養母には花を贈っていますよ。ヒロさんのお母さんに贈ったのは今回が初めてです。この前、実家でお会いできて嬉しかったので贈らせていただきました。喜んで貰えたなら良かったです。」

野分はソファーに座ると嬉しそうに微笑んだ。

野分は本当の母親を知らない。だから、なおさら育ての親や俺の親への感謝の気持ちが深いのだろう。

そう言えば、秋彦も母親とは喧嘩ばかりしていたみたいだし…

俺は普通の家庭に生まれただけでも幸せなのかもしれないな。

母の日なんてガキの行事だと思ってたけど、たまには感謝してやってもいいか…

「ヒロさん、どうしたんですか?何か考え事ですか?」

「ん?何でもない。野分、風呂沸いてるから入ってこい。」

「はい。ヒロさんのために綺麗になって戻ってきますね♪」

「バーカ!」
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