その他いろいろ
□病院は危険地帯?
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カルテを戻しにナースステーションに行くと、キャーキャーと黄色い声が聞こえてきた。
夜勤の時間帯なので職員も少なく、いつもなら深々としているのに何かあったのだろうか?
「カルテお願いします。」
カウンター越しに声をかけると、奥からベテランの看護師さんが小走りでやってきた。
「お疲れ様です。草間先生、同居人の方がいらしていますよ。」
「ヒロさんが?」
確かに今日は着替えを届けてくれるようにお願いしていたけど、どうしてナースステーションにいるんだろう?
看護師さんは急いでまた奥の方に入って行ってしまった。奥からは未だに黄色い声が飛び交っている。
入口に回って入ろうとしたら中から人が出てきた。
「あれ?津森先輩?なんでここにいるんですか?」
「野分?お前こそどうしてここに?診療中じゃなかったのか?」
津森先輩は俺の顔を見て明らかに動揺している。
「終わったのでカルテ戻しにきたんです。それより、ヒロさんが来てるんですよね?」
「あ・・・ああ、来てる。でも、今は行かない方がいいぞ。」
「ご忠告ありがとうございます。行ってみます。」
「おい!野分、待てって!」
引き留めようとする先輩を無視して中に入ると、ヒロさんが看護師さん達に取り囲まれていた。
ヒロさんは新任の若い看護師さんをお姫様抱っこしていて、看護師さんはヒロさんの首に手を回しってしっかりと抱きついている。
ありえない光景に一瞬目が点になってしまった。
「ヒロ…さん?」
「野分…あ、草間先生が来たので失礼します。くだらないことに突き合わせてしまってすみませんでした。」
ヒロさんは抱いていた看護師さんをゆっくりと下ろすと荷物を持って俺の方に歩いてきた。
看護師さん達は残念そうにヒロさんの背中を見送っている。
「お疲れ!」
「お疲れ様です。ヒロさん…今、何をしていたんですか?」
「何って、津森さんと力比べをしてたんだけど…津森さんは?」
力比べって、あれはどう見てもお姫様抱っこだったんですけど…ヒロさん、騙されてませんか?
「先輩なら俺と入れ違いで出て行きましたよ。ヒロさん、ちょっとこっちに来てください。」
ヒロさんの手を引いて、人気のない待合室に連れて行くと、ソファーに座るように促した。
「いきなりどうしたんだ?ほら、これ着替え。」
ヒロさんはキョトンとした顔で着替えの入ったバッグを差し出した。バッグを受け取ってヒロさんの隣に座る。
「ありがとうございます。あの〜…ヒロさん、どうして先輩と力比べなんかしてたんですか?」
「えっと、ここに来る途中で看護師さんにぶつかりそうになって、俺は大丈夫だったんだけどあっちが足くじいたっぽくて、ナースステーションまで運んでやったんだ。」
「お姫様抱っこで…ですか?」
「うん。ダメ…だったか?」
「ダメじゃないですけど…」
「そうしたら、看護師達がキャーキャー騒ぎ出して、それを見た津森さんが対抗意識燃やしてきて、どっちが力が強いか勝負することになったんだけど…」
どうしたらそんな流れになるんですか…先輩も、何がしたいのかわけがわからない。
「それで、どうしたんですか?」
「誰も体重教えてくれなくて誰が重いのかわからなかったから、取りあえず全員持ち上げてみることになったんだ。」
「ヒロさん…うちの職員達に嵌められてますよ…」
「えっ?真剣勝負じゃなかったのか?」
ヒロさん、真剣に津森先輩と勝負してたんだ。でも、さっきの光景はさすがにショックだった。
俺のヒロさんが女の人と…認めたくないけどお伽噺にでてくる騎士みたいで、女性といるのがすごく自然に思えてしまった。
「前にも言ったと思いますけど、ここにはヒロさんを狙っている人が大勢いるんです。もう少し気を付けてください。」
「気をつけろって言われても、どうすりゃいいんだよ。意味わかんねー!」
ヒロさんは少し困ったような顔をしてから、ムスッと押し黙ってしまった。
暫く着替えを頼むのはよそう…守れそうにない。
「ごめんなさい。ヒロさんを困らせるつもりはなかったんです。ただ…あまり俺以外の人と接触しないようにしてくれるとありがたいです。」
「お前がそう言うんなら気をつけるけど…津森さんは無理だぞ。いくら避けようとしても湧いて出てくるんだ。」
う〜ん…津森先輩はやっぱり手強そうだ。ヒロさんをからかって楽しんでるだけならまだいいけど、もし本気だったら…
ヒロさんは絶対に渡さない!