その他いろいろ
□恵方巻きは食べないで
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資料室で文献の整理をしていると、宮城教授に声をかけられた。
「かみじょー、弁当一緒に食べないか?」
時計を見ると12時半を回っている。もう昼か…本に囲まれていると時間が経つのを忘れてしまう。
「はい。今、行きます。」
今日は野分の手作り弁当。なんだかいつもと大きさが違っていたが、時間がなかったので確認せずにそのまま持ってきてしまった。
ソファーに座って包みを開くと、中身は切っていない状態の太巻きだった。漬物が入った小さなタッパーも入っている。
「おっ!上條も恵方巻きかー。今日は節分だもんなー」
宮城教授に言われて思い出した。今日は2月3日だ。
「そう言えば、教室の入口に柊の葉っぱが挿してありましたね。うっかり棘で手を擦りむきそうになりましたよ。」
「柊?俺の行った教室には無かったぞ。」
「あれ?教授、俺の講義の前に同じ教室使ってましたよね?」
「そうだな…あっ!もしかして…」
宮城教授はいきなりクスクスと笑いだした。
「何笑ってるんですか?気持ち悪いですよ。」
「悪い悪い。その柊って、学生がお前を避けるために飾ったんじゃないかな〜と思って。」
「は?どういう意味ですか?」
「お前、鬼の上條って呼ばれてるだろ?柊を入り口に飾ると鬼が入って来られないって昔から言われてるじゃないか。」
あー、そういうことか…それにしても、大学生にもなってそんなバカな真似するヤツがいるなんて呆れてしまう。
「そんなことをする暇があるなら予習でもしていればいいのに。」
「お前、堅過ぎ!もう少しユーモアがあってもいいんじゃないか?そんなんだと今度は豆ぶつけられるぞ。」
「宮城教授…」
「はいはい。お前に豆ぶつけるだけの勇気のあるヤツはいないか…」
そう言いながら宮城教授は重箱から恵方巻きを取りだした。なんか焼き色のついた緑の葉っぱが見えるが具材は何なんだ?
「今年の恵方はどっちだったっけ?」
教授は携帯を取り出して検索している。
「西南西か…窓が南向きだから、こっちかな…上條、俺が食べ終わるまで邪魔するんじゃねーぞ!」
そう言って深呼吸すると、恵方巻きに被りついた。
さてと、俺も野分の作ってくれた恵方巻きを食べるとするか。
西南西を向いて食べようとしたとき、携帯が鳴った。
食べ始める前で良かったと思いつつ、着信を確認すると野分からだ。
勤務中に電話をかけてくるなんて珍しいな…着信ボタンを押すと
『ヒロさん!よかったー出てくれたー』
随分慌てているようだ。
「お疲れー。電話なんかして急用か?」
『お弁当の恵方巻きもう食べちゃいましたか?』
「いや、丁度今食べようとしてたんだけど、電話が鳴ったから食べてない。」
『それ、食べちゃダメです!』
「は?調味料でも間違えたのか?」
『いえ、とっても美味しく出来てました。』
「お前はもう食べたんだな?」
『はい。今食べ終わったところです。』
「それなら食っても問題ないだろ?」
『今、ヒロさんの近くに誰かいまんか?』
「宮城教授がいる。一緒に弁当食べようと思って。」
『ダメです!食べるなら誰もいないところで食べてください。教授や学生さんの居る所で食べるのは絶対にダメです!!』
「なんで?」
いきなり何言ってんだコイツ…
『だって、ヒロさんが恵方巻きを食べている姿を誰にも見せたくないから。』
「はあ!?俺は人前で食えないような恥ずかしい食い方しねーよ!」
『そうじゃなくて、ヒロさんが恵方巻きを咥えてたら欲情しちゃうじゃないですかー!』
「なっ…何エロいこと想像してんだ!そんなのお前だけだろ///」
『そんなかわいい姿、俺以外の人に見せちゃダメです…』
野分の声が少しだけ震えている。そんなに不安なのか?
「わかったよ。誰もいない所で食えばいいんだろ!」
『ヒロさん///』
「誰にも見られないようにするって約束してやるから、お前は仕事に集中しろ!」
『はい!ありがとうございます。ヒロさん…愛してます。』
「バーカ!」
電話を切ると、弁当を包み直す。まったく面倒くせーヤツだな…
宮城教授の方を見ると、ラストスパートをかけている。もう少しで食べ終わりそうだ。
「はーっ…食った食った。上條、誰も来ないようにドアの外で見張っててやるから弁当早く食え!」
「えっ?えっと…変な誤解しないでください!俺は、別に…」
「草間君と約束したんだろ?」
「///」
野分の声は聞こえていなかったはずだが…教授には会話の内容がバレバレのようだ。
「ごちそうさまでした♪」
重箱をちゃっちゃと片付けると教授は二ヤッと笑って楽しそうに部屋から出て行ってしまった。
野分の所為でまた当分からかわれることになりそうだ…
野分のアホバカボケカス!!帰ってきたら豆ぶつけてやる!
弁当の包みを開いて、恵方巻きを両手で持つと、思いっきり被りついた。
あ、うまい…
野分の手作りの恵方巻きがほんのりと甘いのは…かんぴょうと桜でんぶのせいだけじゃないのかもしれない。