その他いろいろ
□別れの予感〜番外編〜
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それから数日後、俺は学会に出席するため一泊二日の出張に出かけた。
夜中に疲れきってマンションに戻ると野分が涙目で抱きついてきた。
「いきなり抱きつくんじゃねー!人に見られたらどうすんだ!」
慌てて野分を押し返して部屋に入る。
「ヒロさん、急にいなくなっちゃうから心配しました!」
「いなくなるって…一泊してきただけだろ?ほら、カレンダーにも出張って書いてあるし。」
野分はカレンダーをまじまじと見てから、照れくさそうに頭を掻いた。
「この前、ヒロさんに一人暮らしするとか言われたから慌ててしまったみたいです。ボストンバッグがなかったし、携帯も繋がらないし…」
「あー、学会が始まる時に電源切ってそのままだった。」
携帯を取り出して電源を入れると野分からのメールが一気に25件も届いた。
「大学の研究室に行ったら真っ暗で宮城教授もいなくて。」
「教授も学会に出てたからな…」
真っ暗って…何時に行ったんだよ。
「宇佐見さんの家にもご実家にもいないから…」
「って、おい!!秋彦の家や実家にまで押し掛けたのか?」
「すみません…念のために津森先輩の家にも…」
津森の家なんかにいる訳ねーだろ!ボケ!!
「俺には一ヶ月近くも音信不通だったくせに、テメーは一日待つことすらできねーのか!」
「そうみたいです…おれヒロさんにずっとこんな思いさせてたんですね。ごめんなさい。」
「もういい。疲れたから風呂入って寝る。」
「俺、背中流します!」
「断る。」
「じゃあ、布団温めておきますね。」
「勝手にしろ!」
「はい。勝手にします♪」
医者として少しは成長したかと思ったのに、まだまだだな…
それでも、俺がちょっと留守にしたくらいでこんなにも心配してくれたことが嬉しくて…
心の中でそっと呟いた。
(野分、ありがとう。愛してる。)
「俺も愛してます!」
「!!」
部屋からぴょこっと顔を出して嬉しそうに笑っている野分をみたら怒る気も失せてしまった。
はぁーっと溜息をついて脱衣所に入る。ここなら表情読み取れねーよな?
野分の笑った顔が頭に浮かんで、俺も少しだけ口元を緩めた。
お前はそうやって笑っていればいい。俺はその笑顔が大好きだから。