その他いろいろ
□勝利の女神は年上腐女子?
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Side:藤堂
やばい!あの電車に乗り遅れたら間に合わない!!
電車を降りて階段を駆け上がると、隣のホームに止まっている電車目指して全速力で走った。
「ドアが閉まります。駆け込み乗車はおやめ下さい。」
ホームにアナウンスが響く。
階段を下りて、電車まであと僅かというところで、前を走っていた女の人が急に立ち止まった。
もう乗れないと判断して諦めたのだろう…でも、俺は諦めないぞ!!
咄嗟の判断で、前の人を抱きかかえて電車に飛び乗った。
俺の後ろでドアが静かに閉まる…良かった。間に合った。
ほっとしたのも束の間、俺は慌てて抱きかかえていた女の人を下した。
彼女はキョトンとした顔で立っている。何が起きたのか理解できずにいるようだ。
「すみません!俺、この電車に乗らないと試合に間に合わないので必死になってしまって。本当にごめんなさい。
あの…この電車に乗ろうとしてたんですよね?」
彼女は茫然と俺の顔を見上げていたけれど、我に返ってにっこりと笑顔を向けてくれた。
「ありがとう。この電車もう間に合わない思ってたから、君がいてくれて助かっちゃった。剣道の試合があるの?」
彼女は俺の持っている竹刀と防具に気付いて尋ねてきた。
「はい。前の電車が遅れてしまって、時間がギリギリなんです。」
「時間がないからって走ると危ないわよ。会場まで気を付けて、試合頑張ってね!」
そう言って俺の胸をポンと叩くと、セミロングの柔らかそうな髪をふわりとなびかせてシートの方に行ってしまった。
花の香り…香水かな?残り香が仄かに香る。
ドアの前に立ったままなんとなく彼女を目で追うと、彼女は空いている席に座って大きなバッグから資料のようなものを取りだして読み始めた。
よく見ると綺麗な人だな。はきはきしていて、仕事もできそうな感じだ。ああいう人を大人女子っていうのかな?
『試合頑張ってね!』の一言にとても勇気づけられた。今日の試合、勝てるかも…
今日は友人の高橋と一緒に『ザ☆漢』のコミックスを買いにきている。
映画化が決定して書店にも特設コーナーができている。
棚にはオリジナルの限定フィギュアも飾ってあって大興奮だ!高橋と二人で盛り上がっていると、後ろから女の人が声をかけてきた。
「美咲くん?」
「相川さん、こんにちは。お仕事ですか?」
「うん、宇佐見先生に頼まれて資料を買いに来たの。後でお土産持って行くから、先生が逃げないように見張っていてくれると嬉しいな〜」
「はい、任せてください!」
あれ?この人…
「あの…こんにちは。この前はどうも。」
俺のこと覚えてるかな?
「あー!君はこの間の電車の…剣道の試合、間に合った?」
「はい。おかげさまで準優勝でした。」
優勝はできなかったけど、あの一言に励まされて実力以上の力が発揮できたんだ。
「凄いじゃない!美咲君のお友達?」
彼女は高橋に尋ねた。
「はい、同級生の」
「藤堂進之介です!」
「私は相川絵里。宇佐見先生の担当編集やってます。よろしくね!」
相川絵里さん…
なんか、相川さんって明るくていいな…こっちまで元気がでてくる。
相川さんは仕事中だからと言って慌ただしくレジの方に行ってしまった。
「藤堂、相川さんのこと知ってたの?電車って何?」
「ああ、この前剣道の試合に行く途中で偶然知り合ったんだ。高橋、相川さんって彼氏いるのかな?」
「へ…?いないと思うけど。」
「そっかー、じゃあ頑張ってみようかな。」
「頑張るって…藤堂、もしかして相川さんのこと…」
「うん、ちょっと気になってる。まだわからないけど、好き…なのかもしれない。」