その他いろいろ

□今日は何の日?〜11月25日〜
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資料室で本を探していたら、宮城教授が慌ただしく駆け込んできた。

「上條?…よかった〜ここにいたのか。」

「宮城教授?どうされたんですか?廊下は走らないでくださいね。」

俺に抱きつこうとする教授の腕を避けて、クルリと本棚の方を向く。

「はいはい…お前、今日はもう講義入ってなかったよな?」

「はい、講義はありませんが…」

嫌な予感がする。今日は野分が待ってるから早めに帰ろうと思っているのに…

何だ?論文の資料探しか?それとも、学会資料のコピー?

何でこの人は自分の仕事を一人でこなせないんだ〜

あれこれと考えている俺に、教授はニコニコしながら話を続けた。

「ちょっと外に出るから付き合ってくれ。そんなに遅くならないから。」

本当に遅くならない…のか?

「それなら別に構いませんが、どこに行くんですか?」

「いいとこ♪」

古本屋に希少本が入荷したのだろうか?それなら俺も興味があるし、ついでに他の本も探したい。

とにかく仕事の手伝いでなくて良かった。そう思いながら教授について資料室を出た。



「えっと…宮城教授…これは何ですか?」

宮城教授に連れてこられた場所は、『芭蕉カフェ』という名の和風カフェだった。

そして、俺達の目の前には何故か抹茶アイスや小豆、生クリームにフルーツで彩られた巨大なパフェが置かれている。

「奥の細道スペシャルパフェ♪さっき注文しただろ?」

「教授が勝手に頼んだんじゃないですか!」

「お前、甘いもの大丈夫だろ?これ食うの手伝ってくれ。」

「はぁ!?」

まさか…これを食べさせるために俺をここに連れてきたのか…怒りがふつふつと込み上げてくる。

「ほらほら、怖い顔しな〜い!今日は記念日だろ?」

記念日?何の?

今日は11月25日…記念日…思い当たる節が何もないのだが…

「えっと…今日って何かありましたっけ?」

俺が尋ねると、教授は二ヤリと笑って

「またまた〜、優秀な上條先生なら忘れるわけないよな〜。はいスプーン♪」

そう言いながらパフェ用の長いスプーンを差し出してきた。

そういう言い方をされるとこれ以上聞けなくなってしまう。何の記念日だか知らないが、これを食べればいいのか?

…って、教授と一緒に!?

「記念日なのはわかりましたが、何で俺が教授と一緒にパフェを食べなきゃならんのですか!?」

「だから、折角だからスペシャルパフェ食べたいし、おじさん一人じゃ食べきれないし…」

「だったら高槻くんと来ればよかったじゃないですか。」

「忍は今試験期間中なんだ。」

そう言った宮城教授の顔は少し寂しそうに見えた。

「えっと…教授、先に食べてください。俺は残った分を食べますので。」

「え〜!こういう時は一緒に食べ」

「ません!!」

まったく、何を考えているのやら。一つのパフェを一緒に食べるとか、どこのバカップルだ。

え…ちょっと待て…男二人でカフェでパフェって…

慌てて周りを見回したが、幸い半個室の席だったので誰も見ていないようだ。

野分ともしたことないのに、教授とこんなことしてていいのか?なんだか…いたたまれなくなってきた…

教授を見ると美味しそうにパフェを食べている。早く帰りたい…



教授がもう食べられないと言いだしたので、残りのパフェを貰った。

大きさの割に甘さ控えめで上品な味がする。こんど野分を連れてきてやるか、あいつなら一人で丸ごと食べられそうだ。

「ごちそうさまでした。」

スプーンを置いて手を合わせると、突然、教授の手が口元に触れた。

「クリーム、ついてるぞ。」

「あ、すみません。」

教授の指についたクリームが何となく気になって見ていると、紙ナフキンで拭き始めた。

そうだよな、これが普通だ。でも、野分なら…

「上條、今日は付き合ってくれてありがとな。これ、ここの店の割引券。今度は草間君を誘ってやれよ。」

「いいんですか?ありがとうございます。」

今度は…野分と一緒に///

「上條、お前さー、草間君のことばかり考えてると芭蕉様の祟りに遭うぞ。」

「は!?俺は別に野分のことなんか…」

「考えてただろ?お前すぐに顔にでるから。そうそう、今日は何の記念日かちゃんと思い出すように!明日までの宿題だ。」

教授は俺の頭をコツンと軽く叩いて、伝票を掴むとレジに向かって歩いて行った。



マンションに帰ると野分が出迎えてくれた。美味しそうな匂いがする。

「ただいま。」

「ヒロさん、お帰りなさい。今日はシチューですよ♪」

「ああ、旨そうだな〜。着替えてくる。」

部屋で着替えをしながら、考える。今日は何の日?芭蕉と関係があるのか?

食卓についてからもまだ考えていたら野分が心配そうに尋ねてきた。

「ヒロさん、どこか具合が悪いんですか?」

「ん…ああ、すまん。ちょっと考え事してて…野分、今日って何の日だっけ?」

「ヒロさん///それって俺を誘ってるんですか?」

「誘うって…どこに?」

「今日は1125で『いい事後の日』ですよね♪」

「へ…事後?」

野分はニコニコしながら言葉を続けた。

「あとでいっぱいしましょうね♪」

「///」

こいつに聞いた俺がバカだった…教授の言ってた記念日って絶対それじゃねーよな?



夜、野分の腕の中で目が覚めた。野分は幸せそうな寝顔でスヤスヤと寝息を立てている。

疲れてるくせに無理しやがって…

野分の黒い髪をそっと撫でると、俺を抱きしめている腕にキュッと力が入った。

「ヒロさん…好きです…」

寝言///

野分の唇にそっと口づけをすると、嬉しそうに笑ってくれた。

いい事後の日か…やっぱりこいつ、バカだな…

11月25日…そうか思い出した!今日は松尾芭蕉の「奥の細道」自筆原本が発見された日だ。

それで、奥の細道スペシャルパフェか…

よし!解決!!今夜はぐっずり眠れそうだ。



〜後日談〜

野分を連れて芭蕉カフェに行った。

目の前に置かれた奥の細道スペシャルパフェを見た途端、野分から黒いオーラが沸きだした…

「ヒロさん、これヒロさん一人じゃ食べきれませんよね…誰と食べたんですか?」

芭蕉の祟りって本当にあるのか?

美味いパフェを食わせてやりたかっただけなのに、笑顔で問いただす野分に悪戦苦闘することになる上條弘樹であった。

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