☆彡夏のエゴイスト
□カタツムリ♪
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今日も雨。空にはどんよりとした雲が広がっている。
6月に入って雨の日が続いている。しとしとと降り続ける雨とじめじめした空気に気が滅入りそうになる。
朝の回診が終わり、体調の良い子供達を連れてプレイルームにやってきた。
比較的元気な子供達は晴れた日には病院の外に散歩に行ったりするのだけれど、今週は天候が悪くプレイルームで我慢して貰っている。
子供達は毎朝、窓の外を眺めては「雨、止まないね…」と残念そうな顔を見せる。どうにかしてあげたいけど、俺には天気を左右させるような特殊能力は備わっていない。
プレイルームのTVに映し出された幼児向けの番組では、うたのお姉さんがカタツムリの童謡を歌っている。
子供達と一緒になんとなく聞いていたら、雫ちゃんが
「草間先生、カタツムリってどんなの?」
と尋ねてきた。雫ちゃんは4歳の女の子。本物のカタツムリは見たことがないらしい。
絵本を見せて教えてあげたけれど、いまいちよくわからないようだ。他の子供達も集まってきてカタツムリの話題になった。
TVや絵本で見て知っている子は多いけれど、実物を見たことがある子は少ないようだ。
「先生、カタツムリ見てみたい。」
子供達にせがまれて、少し考える。カタツムリ、俺も最近見てないなぁ…
「それじゃあ、先生が休み時間に探してみるよ。見つかったらみんなに見せてあげるね。」
笑顔でそう言うと、子供達は大喜びで嬉しそうにカタツムリの歌を歌いだした。
そんな訳で、休憩時間に病院の周りを探してみることにした。傘をさして外に出ると病院の裏手に向かった。
カタツムリというと紫陽花の葉っぱの上で這っているイメージがあるけれど、実際は道路の隅っことか石の上とか落ち葉の間なんかにいることが多い。
殻の材料となるカルシウムを摂るためには石灰岩が最適なのだけれど、都会で暮らすカタツムリはコンクリートを栄養にしていて、雨が降るとコンクリートが溶けるからそれを食べに姿を見せるようだ。
裏庭の少しじめじめした場所で建物の隅っこを探していると、可愛らしい小さなカタツムリを見つけた。だけど、近くに少し大きなカタツムリがいて親子かな?と思ったので捕まえるのはやめた。
別の場所を探すと、一匹だけでいるカタツムリを発見した。子供ではなさそうだし、この子にしよう。
殻をつまんで壁からそっと離すと、手の甲に乗せた。
「ごめんなさい。暫くお世話になりますね。」
カタツムリに話しかけながら、病院に戻った。
思いのほか早く見つかって良かった。あとで子供達に見せてあげよう。
患者さんからお見舞いの果物が入っていた透明のパックを貰って、土や紫陽花の葉っぱと一緒にカタツムリを入れた。
餌は・・・キャベツにしておこう。
よくある野菜ならなんでもいいんだけど、人参やお芋が入っていたら子供達はビックリするかもしれない。
人参が嫌いな子も多いから「カタツムリさんが可愛そう。」とか言われそうだ。
食堂からキャベツの切れ端と卵の殻を貰ってきた。卵の殻はカルシウムだけど…子供達にはカタツムリの遊び場所ということにしておこう。
高学年くらいの子にはちゃんと教えるべきなんだろうけど、小さい子供達のイメージは大切にしたい。
カタツムリの入ったパックを持ってプレイルームに行くと、子供たちが目を輝かせて集まってきた。
「触る時は優しくね。カタツムリを触ったら石鹸でちきんと手を洗うんだよ。」
注意事項を話しながらパックをテーブルの上に置くと、子供達は珍しそうにカタツムリを覗きこんだ。
殻を摘まんで持ち上げたり、手に乗せたりしてカタツムリとの触れ合いを楽しむ子もいれば、それを眺めているだけの子もいる。中にはカタツムリが気持ち悪くて母親の所に飛んで行ってしまう子もいた。
反応はそれぞれだったけれど、病気の子供達の良い気分転換になったみたいだ。