☆彡春のエゴイスト

□追憶の先で
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Side:弘樹

ぐったりとうつ伏せの体勢になって枕を抱えるようにして寝そべった。

隣では野分がスースーと静かな寝息を立てている。さっきまでの激しさが嘘のようだ。

仕事で疲れきっているはずなのに、どこにこんな体力が残っているのかと不思議になる。人を散々煽って、何度もイカせておいて行為が終わった途端に力尽きたようにストンと眠りに落ちてしまった。

腰が少しだけズキズキする。身体にはまだ野分の熱が残っていて、心地良い倦怠感に包まれている。

野分の寝顔を見ていたら、ふと昔のことを思い出した。

バイトと勉強で疲れきって俺の部屋で眠っていたまだあどけない頃の野分の寝顔が脳裏をよぎる。

あの頃はまだガキ臭かったけど、いつの間にかすっかり大人になりやがって…

頼もしくなった野分にこっちが置いて行かれそうで、嬉しいような悔しいような複雑な気分になる。

目を瞑ると、野分と初めてであった公園の景色が浮かんできた。

秋彦に失恋して泣いているところに、突然ペットボトルロケットが落ちて来た。茂みから黒い人影が現れたと思ったら、泣き顔をガン見された上、いきなり自己紹介されて腕を掴まれて連れて行かれて…思い返してみると最悪だな。

あれ?あの時、どうしてすぐに帰らなかったんだっけ?

そうだ…野分の手の感触が秋彦に似ていたからだ…

家の鍵を持ち去られたり、勝手に家に上がりこまれたりして冷静に考えれば怖い話だが、あの手の感触に惹きつけられて追い出すことができなかったんだ。

そう言えば、付き合い始める前はよく野分を秋彦と比べていたっけ。手以外に似てるところがないかとか、つい探してしまった。全然似てなかったけどな…

でも、野分に勉強を教えて一緒に過ごしているうちに、野分本人を見るようになっていった。

野分は素直で、いつでも思ったことを真っすぐに言葉にして伝えてくる。プライドが高くて素直になれない俺とは正反対だったから最初のうちは戸惑ってペース崩されまくりだったけ。

コイツには何度もプライドを粉々にされて、その度に顔から火が出るくらい恥ずかしい思いをさせられて、ムカついたけど…同時にそれが心地良くて…いつの間にかもっとして欲しいと思うようになっていた。

意地やプライドでガチガチに固められていた俺の心を溶かしてくれたのも、愛されることの喜びを教えてくれたのもコイツだった。

今では、野分がいない生活なんて考えられない。俺はお前がいないとダメなんだ。

瞑っていた目を開けて、眠っている野分の顔を覗き込んだ。

昔はいつも冷静で一人でも平気な人間だったのに…俺をこんなにしたのはお前なんだからな!

野分の頬をキュッと抓ったら、「ヒロさん…痛いです…」と嬉しそうな顔で寝言を言ってきた。

「バーカ!」

眠っている時でも嬉しそうに俺の名前を呼んでくれる野分が愛おしくてたまらなくなる。

「野分、愛してる。おやすみ。」

野分の唇に軽くキスをして、隠れるように布団に潜り込んだ。
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