☆彡春のエゴイスト
□桜の日まであと何日?
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病院からの帰り道、いつもとコースを変えて桜並木の歩道を走ることにした。
もう日は沈んてしまったけれど、空気は暖かく空には朧に霞んだ三日月がぽっかりと浮かんでいる。
まだ咲き始めたばかりの桜の花の美しさと、ヒロさんに会える嬉しさでウキウキと心が弾む。
さっきまで連勤でぐったりしていたのに、帰路に着いた途端に疲れがどこかに飛んで行ってしまうなんて我ながら単純だと苦笑してしまう。
並木道の中ほどまで走ったところで、前方を歩く人影に気がついた。あの後ろ姿は…ヒロさんだ♪
「ヒロさ〜ん!」
ペダルを漕ぐ速度を速めて、ヒロさんに追いついた。ヒロさんは立ち止まって俺が来るのを待っていてくれた。
「おう!お疲れ。」
「お疲れ様です。」
ヒロさんは少し驚いた様子で、でも嬉しそうに俺を真っすぐに見つめた。
「お前がこの道通るなんて珍しいな。桜、観に来たのか?」
「はい。綺麗ですね…」
夜桜と月明かりの下で薄らと頬を赤らめているヒロさんがとても綺麗で思わず見とれてしまう。
「ああ、綺麗だな。」
ヒロさんは桜を見上げながら応えた。
「鞄、ここに乗せてください。」
「サンキュ。」
ヒロさんは鞄を荷台に乗せると、気持ちよさそうに両手を伸ばした。
柔らかい風が吹いて、一片の花弁がヒラヒラとヒロさんの上に舞い落ちた。
「ヒロさん、髪に花弁がついてます。」
自転車のスタンドを立てて、ヒロさんに近寄ると髪に着いた花弁をそっとつまんだ。手のひらに乗せてヒロさんに見せると、ヒロさんは花弁を手に取ってふーっと吹き飛ばした。
飛んでいく花弁を見つめるヒロさんの目は優しげで…同時に少しだけ儚げに見えて、とても綺麗だ。
我慢できなくなって、ヒロさんの顎に手をかけて俺の方に顔を向けさせると、そっと唇を重ねた。
突然のことにヒロさんは目を見開いていたけれど、背中に手を回して抱きよせると、ゆっくりと目を瞑ってくれた。
このままキスしていたいけど、怒られそうなので軽く触れただけで唇を放す。
「お前な…公道でそういうことするなって言ってんだろ!人に見られたらどうするんだ。」
「ごめんなさい。」
でも…ヒロさんがいけないんですよ。俺はヒロさんのことになると自制心が効かなくなってしまいます。いくら怒られてもこれだけは直りそうにありません。
「反省…してねーだろ。」
呆れ顔で俺を見つめるヒロさんに、わざとしょんぼりした顔をしてみせたら笑われてしまった。やっぱりヒロさんは笑っている顔が一番可愛い。
しばらく桜を眺めてから、ヒロさんと並んで歩きだした。
「ヒロさんもこの時期はこっちの道を通って帰るんですか?いつもは大通りを歩いてますよね?」
「疲れてる時はいつもの道の方が近いからそっちに行くんだけど、定時で上がれた時はこっちから帰ることが多いかな。途中に古本屋もあるし。」
「そうなんですか。じゃあ、俺も早く帰れる日はこっちの道を通りますね。」
「今日もこれから古本屋に行くんだけど、お前も来るか?疲れてんなら先に帰ってもかまわねーけど。晩飯は帰ってから俺が作るし。」
「ヒロさんと一緒に行きたいです!」
少しの時間でもヒロさんとデートできると思うと嬉しくて、思っていたより大きな声で返事をしてしまった。
ヒロさんもそれに気付いたようで眉間に皺をよせて
「言っとくけど、デートとかじゃねーからな///」
と、目を背けてしまった。