☆彡春のエゴイスト

□梅香るころ
1ページ/6ページ


カーテンを開ける音がして、朝の柔らかな日差しが部屋に差し込む。

「ヒロさんもうお昼ですよ。そろそろ起きてください。」

優しい声で起こされて、重い眼を摩りながらベッドから身体を起こした。

「おはよう。今何時だ?」

「お昼の12時半です。」

「お前、いつ帰ってきたの?」

「今日の早朝です。ご飯作ったので一緒に食べましょう。」

春眠暁を覚えずというにはまだ時期が早いけれど、少し寒さが和らいできたせいか心地良さにうつらうつらしてしまう。

いくら休日だからといって昼まで寝てるなんて、弛んでる証拠だ。もっとしっかりしねーと。

頬をパンパンと叩いて、洗面所に向かった。

顔を洗って、リビングに行くと食卓に美味しそうな料理が並んでいる。

ベーコンの香ばしい香りに紛れてどこからか甘い香りが漂ってきた。

「ん?これって花の香り?」

「わかりましたか?梅の花を戴いたんで飾ってみたんです。」

野分の視線の先には和風の細長い花瓶に活けられた梅の枝があって、小さな白い花を咲かせている。

「梅ってこんなに香りがするんだな。」

「ええ、外に咲いているときはたくさん花が咲いている時じゃないとわかりにくいんですけど、部屋の中だと枝一本でも結構香りが楽しめるんですよ。」

椅子に座って、いただきますの挨拶をすると早速半熟の目玉焼きを口に運んだ。野分の作る目玉焼きは黄身の焼き加減が絶妙で美味いから、起きてすぐでもパクパク食べられる。

箸を動かしながら野分に尋ねた。

「梅の枝、貰ったって言ってたけど、花屋にでも行ったのか?」

「いえ、散歩をしていたら梅がもう咲いている家があって、塀越しに見ていたらおじいさんがでてきたので少し話たんですけど、花が好きなら分けてあげるってくださったんです。」

「そうか、良かったな。ん?散歩って、お前早朝に帰って来たんだよな。寝てねーのか?」

「疲れていたのでリビングで眠ってしまったんですけど、10時ごろ宅配屋さんのチャイムで目が覚めました。あ、ヒロさん本が届いてますよ。テレビの前に置いておきました。」

「悪い、全然気付かなかった。今日届くのわかってたのに、起しちまったみたいでごめん。」

野分の方が疲れているはずなのに、俺の荷物の所為で起こしてしまったばかりか、昼まで眠っているなんて俺って酷いヤツかも。

「いえ、短時間でも深い眠りだったので疲れは取れましたし、天気がよかったから寝てるのもったいなくて散歩に行って来たんです。ヒロさんも誘おうと思ったんですが、あまりにも寝顔が可愛いくて起こせませんでした。」

寝顔が可愛いって///俺、涎垂らしたりとかしてねー…よな…

恥ずかしさを紛らわそうと急いでベーコンを口に運んでいると、野分がにっこりと微笑みかけてきた。

「ヒロさんは可愛いです。」



食事が済むと、後片付けを買って出た。朝から野分に世話を焼かせっぱなしだったからこれくらいしねーとな。

皿を洗いながら、テレビを見ている野分に声をかける。

「お前、今日休みなのか?」

「はい、明日の朝まで休みです。久しぶりにどこかに出かけますか?」

「ああ、俺も散歩してみたいし。公園にでも行くか?」

「そう言えば、ヒロさんと初めて会った公園に梅林がありました。もう咲いているかもしれないので行ってみましょう。」

野分と休日が重なるなんて、何週間ぶりだろう?もっと早く起きればよかったな…

明日の朝まで野分を独占できるのが嬉しくて、いつもなら適当に洗ってすませる食器をピカピカに磨いた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ