☆彡夏のエゴイスト

□なんとなく特別な日
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「すぐに作りますから、ヒロさんは大人しく本でも読んでいてください。」

遠まわしに邪魔者扱いされている気がしなくてもないが…まあ、いいか。

ソファーに腰を下ろして本を読み始めると、野分はテーブルの上にスーパーの袋の中身を出し始めた。

野分の提案で、何を作るかは決めずに予算内で適当に目に付いた食材を買ってみることにしたのだが…

アイツあの食材で料理できるのか?

野分が困っているのではないかと心配で様子を覗っていると、野分はクスクス笑いだした。

「どうした?俺、何か変なもん入れてた?」

「いえ…でも、ヒロさんは可愛いな〜と思って。」

「はあ!?」

何を見て俺が可愛いと連想したのか、野分の思考回路が全くわからない。

でも、レシピが思いつかなくて困ってる感じじゃなさそうだ。本に目を戻して続きを読むことにした。



暫くすると美味しそうな料理の匂いが漂ってきた。

「野分、何か手伝うことあるか?」

「じゃあ、ワインの栓抜いておいてください。」

「わかった。」

立ち上がって、ワインを手に取った。

「えっと、栓抜きは…あれ?無いな…まっいいか…」

コルクに手をかけると、鍋の前にいた野分が飛んできた。

「栓抜き、ここにあります!」

引き出しからさっと栓抜きを取り出して俺の方に差し出した。

「おっ!サンキュー」

俺が栓抜きをコルクに挿すのを確認して、野分はほっと胸を撫で下ろした。

「ヒロさん、家の中で栓飛ばすのはやめてくださいね。大惨事になりそうで怖いです。」

「大惨事ってなんだよ?」

「例えば、栓が俺の頭に当たって跳ね返って蛍光灯を直撃して下に落ちて料理の中に入るとか…」

「あのなー…」

いくら俺でもそんなヘマはしない…と思う。多分…

食卓にはもう料理が並んでいる。あとは今鍋の中にあるのをよそえば完成かな。

グラスにワインを注いで食卓に着いて野分を待っていると、梅干しの入ったサバの味噌煮が出てきた。

その他のメニューは海苔とワカメと胡瓜の酢の物に、ひよこ豆とロースハムとキャベツのスープ、それにワイン…

「なんか…変わったメニューだな。」

「やっぱり、メニューは予め決めておいた方がいいですね。」

「でも、やっぱお前スゲーな。適当に買った食材全部使ってる。」

「適当に…やっぱり意識してなかったんですね。」

「えっ?なに?俺何買ったっけ?」

確か、梅干しとワカメと海苔と胡瓜…あと味噌が切れてたから買って、野分と一緒に飲もうと思ってワインも買ったよな…

「悪い。塩分摂り過ぎだな。お前が魚とかハム買ってたから他のとこ見てたらこうなった。もっと栄養バランスも考えないとダメだよな。」

「いえ、そういうことじゃなくて…俺、ヒロさんの買ってる物見て、ひよこ豆とキャベツを籠に入れたんですけど。」

ん?俺の買った物とひよこ豆とキャベツって何か関係があるのか?やっぱり野分の思考回路は謎だ。

「よくわかんねーけど、冷めないうちに食べるぞ。いただきます。」

「いただきます。」

野分も手を合わせて箸を取った。スープを手にとって嬉しそうな顔をしている。

「このスープ美味いな。今度また作って。」

「はい。これ、ヒロさんスープなんですよ。」

「はあ!?なんだそのネーミングは…」

「わかりませんか?じゃあ大ヒント、ひよこ豆とロースハムとキャペツの頭文字は何でしょう?」

頭文字?ひ・ろ・き…って、俺の名前じゃねーか。

「お前、どこまで俺が好きなんだよ。こんな選び方しやがって。」

とんでもないこじつけに呆れていると、野分はクスリと笑った。

「ヒロさんだってしてるじゃないですか。海苔とワカメと胡瓜♪」

あっ///

「俺がサバを買ったら、梅干しと味噌を買ってるし…」

やべー…

「それ、わざとじゃないからな…」

「わかってますよ。無意識って怖いですねー。」

「だーかーらー、そんなんじゃねーって!」

「アハハ…ヒロさんは可愛いです♪」

そうか、可愛いって言ってたのはこのことか…

それにしても、メインの魚料理が秋彦で、スープが俺で、酢の物が野分って…なんなんだこのメニューは。

偶然とは言え、いたたまれなくなってワインをぐぐっと飲み干した。
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