☆彡春のエゴイスト

□梅香るころ
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二人で一緒にお守りを買って、福岡の街を歩いて、帰りの飛行機の中で野分から話を聞いた。

家に帰っても、俺が帰ってきた形跡がなかったから心配して携帯に連絡を入れたけれど、俺が返事をしなかったから、大学に問い合わせたらしい。

宮城教授から無理やり話を聞きだして、急いで福岡まで飛んできたと野分は苦笑しながら話してくれた。

「ヒロさんがK大に移りたいのなら俺は止めません。会えなくなるのは寂しいけど、研修期間が終わったらこっちで就職先を探します。だから、ヒロさんが好きなように決めてください。」

「でも、お前、留学は?」

「留学はしないって言ったじゃないですか。」

野分はキョトンとして答えた。

「確かにカーター博士からお声がかかるのは名誉なことなんですけど、俺は小児救急志望で子供達と直接触れ合っていたいんです。それに、俺は研究者向きじゃないので後輩を指導することもできませんし。」

野分の言葉に一気に気が抜けてガックリと肩を落とした。また俺の空回りだったのか…

「K大には…今は行かない。お前が一人前の医者になった後で、縁があれば行くかもしれねーけど。」

「ヒロさん。」

「それより俺、何か悪い病気かもしれない。」

「え?どこか悪いんですか?」

野分は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

「お前が感じられないと、何故か涙が止まらなくなるんだ。」

「それは重症ですね。でも、もう涙はでなくなると思いますよ。俺はヒロさんを放しませんから。ヒロさんがどこに行っても必ず追って行きます。」

飛梅…主を追って一夜にして遠い場所から飛んできた梅の木の伝説がふと頭をよぎる。

『ヒロさんがどこに行っても必ず追って行きます。』

男らしくキッパリと自信ありげにそんなことを言われたものだから、嬉しくて涙が溢れ出てきた。

野分は俺の涙を拭いながら、クスリと笑う。

「公共の場で泣き過ぎですよ。俺が一緒いるのに涙が止まらないなんて、俺は医者失格ですね。」

「んなことねーよ!今、止めるから。」

ゴシゴシと袖で涙を拭って野分を睨みつけると、野分は嬉しそうに俺の髪をくしゃっと撫でた。

「あのさ、一つだけ気になったことがあるんだけど。」

「何ですか?」

「お前、どうして俺が大宰府にいるのがわかったんだ?」

「ヒロさんの匂いがしたからです♪」

マジか…無邪気に即答する野分を半信半疑で見つめる。

どこに行っても必ず追ってくるって…裏を返せばコイツからは逃げられないってことなんじゃ…飛梅じゃなくて警察犬?

まあ、いいか。俺も野分から離れる気はねーし。

窓の外には青い空が広がっている。

今度休みが合ったら、また野分と一緒に公園に行こう。満開の梅を野分と見たい…

でも、野分はなかなか休みがとれないから次は桜かな。

春も夏も秋も冬も…ずっと野分と一緒に。
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