☆彡春のエゴイスト

□梅香るころ
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公園に着くと、子供達の賑やかなはしゃぎ声が聞こえてきた。天気がいいせいか親子連れが多く、レジャーシートを広げている家族もいる。

「子供は元気だな。」

「はい。子供の声を聞いているとこっちまで元気がでてきます。」

遊具のある広場を抜けて、少し歩くとベンチに腰掛けて絵を描いている男がいた。この辺りは比較的静かで憩いの場所になっている。

人気が無くなってきたところで、野分の手が触れた。拒まずに、そっと手を繋ぐ。

野分の手は大きくて温かい。手からドキドキと鼓動が伝わってくるのは気のせいだろうか。

少し恥ずかしくなって下を向いて歩いていたら、野分が急に立ち止まったので、慌てて足を止めた。

「ヒロさん、あそこ。俺がヒロさんと初めて会ったベンチです。」

いつの間にか芝生広場の近くまで来ていて、野分の指の先にはあの日俺が座っていたベンチが昔と変わらずに残っていた。

「あの時は、すげー驚いたんだぞ。いきなり足元にペットボトルロケットが飛んできて、死ぬかと思った。」

「大げさですね。でも、あのロケットのおかげでヒロさんに出会えました。」

「そうだったな。」

「あの時のヒロさんは泣いていたけれど、今は…幸せそうで俺も嬉しいです。」

どうしてコイツは恥ずかしげもなくこんな台詞が言えるんだろう。

でも、野分に出会えたから今俺はこんなに幸せなんだ…恥ずかしくて口に出せない代わりに、野分の手をギュッと握った。

芝生広場を過ぎると梅林が広がる広場に出た。

「まだ、あまり咲いていませんね。でも、蕾はたくさんついてますよ。あ、あっちの方にいくつか咲いてるみたいです。」

子供のように俺の手をグイグイ引っ張って歩く野分を微笑ましく思いながらついて行くと、たくさんの花を咲かせた木の前に着いた。

「綺麗だな…」

「はい、綺麗です。でもヒロさんの方がもっと」

「それ止めろ!恥ずかしい///」

微かに梅の香りが漂う。いつまでもここで野分と一緒に花を見ていたい気分だ。

「ヒロさん、梅の花言葉知ってますか?」

「知らない。なに?」

「高潔です。梅の花を見ていると自分は何のために、誰のために生きるのかを改めて考えさせられます。

強い心があればどんな困難も乗り越えられるし、どんなことでも耐えられます。ヒロさんのためにも、医者になる夢を叶えるためにも、もっと頑張ろうって思えるんです。」

そう言った野分の横顔はとても男らしくて、出会った頃の少年のような面影は影を潜めている。

「高潔か…俺も、お前に追いつかれないように頑張らないとな。」

「ヒロさんは十分頑張ってますよ。だから、時々は立ち止まって俺を待っていてください。」

「バーカ!俺はウサギじゃねーから途中で寝こけたりしねーんだよ!全速力で走ってやる!」

「酷いです。それじゃ、カメがいくら頑張っても追い抜けないじゃないですか。」

野分があまりにも情けない顔するものだから、思わず声をあげて笑ってしまった。

野分も楽しそうに笑っている。こんな日が、ずっと続けばいい。これからもずっと…
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