純情エゴイスト〜のわヒロ編6〜
□ライバルは研修医?
2ページ/2ページ
「んー…頭痛てー…」
ズキズキと痛む頭を押さえながらベッドから身を起こすと、野分が心配そうな顔で見つめていた。
「飲みすぎですよ。薬用意しておいたので飲んでください。」
「うん…ありがと。」
錠剤を口に放り込んで、ミネラルフォーターで流し込んだ。
「昨夜はフラフラになって帰ってきて玄関で寝ちゃうから大変だったんですよ。大学の仲間と再会して盛り上がるのはわかりますが、俺がいなかったら風邪をひいてるところです。」
「迷惑かけてごめん。」
帰りの記憶がまったくない。無事に帰ってこられたのが奇跡だ。
「ヒロさん?」
「ん?」
「何かありましたか?」
「別に…」
「元気がないです。」
「二日酔いだからだろ。」
野分を取られてしまいそうで心配だなんて、バカバカしくて言えるわけが無い。
こんなに俺のことを想ってくれているのに…信じているのにこんな気持になってしまう自分が嫌だ。
「ヒロさん、二日酔いで涙はでませんよ。」
野分はクスッと笑って、頬を伝う涙を拭ってくれた。
野分の前で泣くとか、どれだけ弱ってんだよ…
「涙腺緩んでるのかも。」
「それは大変です。治してあげますから、ちゃんと話してください。」
ベッドに腰掛けて…抱き寄せられる…広くて温かい野分の胸に顔を埋めるとちょっとだけ安心した。
「あのさ、小児科の研修医に背が高くて可愛い子がいるって聞いたんだが。」
「いません。」
「えっ…でも、同期の子供が入院した時に世話になったって…研修医の先輩が好きでアプローチしてるって…」
「あー、何度も食事に誘ってくる子がいるんですけど、その子のことかなぁ?」
野分…?
不可解そうに首を傾げている野分を見たら、なんだかこの先を言うのが恥ずかしくなってきた。
「あの〜、もしかして焼きもち妬いてくれたんですか?」
なんか…ここで首を縦に振ったら負けな気がする。
「誤解されると困るので説明しますけど、食事の誘いもデートの誘いも全部お断りしてますから。」
「いや、でも…同じ研修医同士だし、俺より話とか合うだろ?」
「う〜ん…俺、あまり喋らないので、何も言わなくても察してくれる津森先輩の方が一緒にいて楽です。」
「そう…なのか?」
津森というのがちょっと引っかかるが、思っていたような心配はなさそうだ。
「それにその子はそんなに可愛くないです。ヒロさんの方がずっと可愛いですよ///」
頬を染めて子犬のような澄んだ目を真っすぐに向けながら、そんなことを言われたら…
「あわわっ…ヒロさん、大丈夫ですか?」
「テメーの所為で涙腺崩壊したじゃねーか!このヤブ医者!」
ほっとしたのと同時に嬉し過ぎて…涙が溢れ出てしまう。
「あはは…俺の所為ですね。あまり一緒にいられなくて、会話も少ないから些細なことで不安になってしまうんですよね。その気持、俺も良くわかります。」
野分…
「信じてないわけじゃないけど、どうしようもなく不安になってネガティブになってしまう。未だに嫉妬してしまうのは俺だけかと思っていましたが、ヒロさんでもこんな気持になることがあるんですね。」
「ガキっぽいって思っただろ。」
「嬉しいです。ヒロさんは最高に可愛いです!!」
「っつ…デカイ声出すな。頭に響く…」
二日酔いだったのを忘れていた。
「ごめんなさい。もう少し寝ますか?」
「うん…折角の休みなのにごめんな。」
「気にしないでください。」
笑顔でそう言って、当たり前のように人の布団に潜り込む野分。
「今は寝顔で我慢しま…ヒロさん?それじゃ顔が…あはは、いいですよ。おやすみなさい。」
寝顔を見られないように野分の胸にピッタリと顔をくっつけている俺の背中を、野分は優しくトントンと叩いてくれている。野分…ありがとう。
ガキ臭いところを見せてしまったけど、目が覚めたらいつもの俺に戻るから。今だけは甘えさせて…
野分に身を委ねてうつらうつらしていると、低く囁くような声が聞こえてきた。独り言?
「文学部の同期の人達って、趣味も話も合いますよね。俺といるより楽しかったですか?」
ん…?
「俺、ヒロさんが帰って来るまで心配でずっと玄関の前で待ってたんですよ。」
んんっ!?
まさか同じような心配を野分もしていたとは。
「研修医の女の子の話をした人、ヒロさんに気があるのかも。俺とヒロさんとの仲を裂こうとしたのかもしれない…」
いやいや、それは考え過ぎだって。アイツ、子持ちだし。
「不安です。起きたらちゃんと責任取ってくださいね。」
しょうがねーな…
『了解!』の想いを込めて野分の背中に腕を絡めた。