純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜

□野分のハッピーハロウィン
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10月31日。今日はハロウィン♪

ロッカールームに入ると、様々な衣装や小物が入った段ボール箱が置かれていた。

土曜日で外来は午前中までだから、外来の小児科医と非番の小児救急医がハロウィンのイベント担当になった。

今年は何の仮装にしようかな?

去年は黒いマントを着てジャック・オー・ランタンを頭に被ったら看護師さんに子ども達が怖がるからとダメだしされてしまって、ピーターパンの衣装に変えたんだよね…

俺はデカイから、顔が隠れるのとかホラー系の衣装は控えた方がよさそうだ。

あっ、これにしようかな♪

可愛らしい衣装があったので引っ張り出していると、津森先輩が入ってきた。

「お疲れ〜。」

「あっ、先輩。お疲れ様です。」

「ハロウィンの衣装か?」

「はい!先輩は何にしますか?」

「俺は勤務中だからパス!」

そう言いながらも先輩は小物が入った箱から蝙蝠の付いたカチューシャを取り出して頭につけている。鏡を見ながら満足そうに

「おっ!これいい感じじゃん♪」

とか言っていて楽しそうだ。俺も着替えなくちゃ。

衣装を出して着替えようとしていると、津森先輩が急に笑い出した。

「アハハハ…お前、それ着るの?」

「えっ?おかしいですか?」

「それって、白雪姫の小人の衣装だろ?小児科で一番デカイ奴が小人なんて…アハハハ…」

そんなに大笑いしなくても…

だけど、確かに俺が小人っていうのも無理があるかも。

「野分、こっちの王子様の衣装にすれば?お前、こういうの似合いそうだし。女の子達が喜ぶぞ。」

「えっ…でも…俺、この後仮装して本屋に行く予定なんです。さすがにこれは目立ち過ぎじゃないですか?」

「衣装着たまま帰るのか?勇気あるなー。自転車を漕ぐ王子とか…面白れー♪」

「先輩…他人事だと思って…」

「だけど、ハロウィンなんだし駅前の商店街でも仮装パレードとかやってるから、どうせならそれくらい目立った方がいいんじゃねーの。」

「そうですか?」

王子様の衣装を箱から出して並べてみた。

「ラッキー!これ、3Lサイズじゃん♪お前、これに決定!!っていうか、これお前用に用意されてたんじゃねーの?他のサイズ小さいし。」

「へっ?」

「これ買って来たのナース達だろ?お前に着て欲しくてデカイサイズ買って来たんだよ。人気者はいいよなー♪」

先輩は俺の肩をポンポン叩きながらそんなことを言っている。

俺のために大きいサイズを用意してくれたのはありがたいけど、なんだか嵌められたような気がする…

「これ着ないとダメですか?」

「ダメだろうな。」

まあ…いいか。ハロウィンだし…

諦めて王子様の衣装を着ることにした。



午後6時過ぎ…やっと病院から脱出することができた。

王子様の衣装を着たら女の子達にはキャーキャー言われてお姫様抱っこの行列ができるし、小学生の男の子達にはマントを引っ張られたりしてからかわれるし…散々な目に遭ってしまった。

その上、お菓子を配り終えてからも看護師さん達や入院している子どものお母さん達に捕まって写真の撮影会が始まってしまった。

他の先生たちは、俺に任せてそこそこで引き上げてしまうし…これは研修医に対する苛めなんじゃ…とちょっとだけ卑屈になってしまう。

それでも何とか、夕方には病院を出ることができた。ヒロさんの衣装も借りたし、準備は万端だ。

自転車を漕いで本屋に急ぐ。

駅前まで行けば仮装している人達が大勢いるから恥ずかしくないけど、そこに辿り着くまでが…

「あっ!王子様が自転車漕いでるよ。変なの〜」

大人は空気を読んでくれるけど、子供は正直だ。すれ違いざまに指を指されるといたたまれなくなってしまう。

だけど…ヒロさんのために我慢しないと。

駅前通りに着いたので、自転車から降りて押して歩いた。パレードやイベントで賑わっていて普段よりも人通りが多い。

奇抜な衣装を着ている人も多いから、ここまで来れば安心だ。…と思ったのに、携帯のカメラを俺の方に向けている人が多いのは何故だろう?

この格好そんなに目立つのかなぁ?それとも、誰か芸能人にでも間違われているのだろうか?

ちょっと気になるけど、とりあえず本屋に行こう。

本屋に入って、ヒロさんから頼まれていた本を探す。文芸書の新刊コーナーに行くとすぐに見つかったので、手に取ってカウンターに向かった。

あれれ?なんだこの行列?

いつもは一列に並ぶのに今日は列が2つできていて、片方だけ店舗の外にまで列が続いている。サイン会でもやってるのかなぁ?

空いている方の列に並ぶとすぐに順番が回ってきた。

カウンターに本を出して財布を出そうとしていると…

「キャー!あっちにも王子様がいるよー!」

「ホントだ♪」

「雪名君と並んでくれないかな〜」

長い方の列から黄色い声が飛んできた。王子様って…もしかして俺?

キョロキョロしていると、カウンターから俺と同じくらいの身長の王子様のコスプレをした店員さんが出てきた。

「すみません。申し訳ないんですけど、ちょっとだけ俺と並んであっち向いてもらえませんか?」

「はあ…」

言われるままにそっちを向くと、長い方の列の女の子達の大撮影会が始まってしまった。店員さんは慣れた様子でにこにこしながら手を振っている。

しょうがないなぁ…俺も笑顔を作って見せる。俺の写真なんか撮って楽しいのかなぁ…

「ご協力ありがとうございました!」

王子様姿の店員さんは丁寧にお礼を言って、カウンターにいる店員さんに何か目配せして戻って行った。

「すみません、巻き込んでしまって。お礼と言ってはなんですが、よかったらこれもどうぞ。」

俺の対応をしてくれていた店員さんが出してきたのはストラップと同じデザインのパンダが付いたボールペン…

わ〜///ヒロさんの喜ぶ姿が目に浮かんで思わず頬が緩む。

「ありがとうございます!」

本とパンダのストラップとボールペンを手に入れて、ホクホク顔で店を出た。

今日の任務は全て果たした!後はヒロさんと…♪
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