純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□野分のハッピーハロウィン
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朝食はヒロさんの定番の目玉焼きメインのシンプルなメニューだったけれど、今日は何故か目玉が二つあった。
「あれ?俺のだけ卵2個ですか?」
「双子だったんだ。何か良いことがありそうな気がしたからお前にやる。」
「それならヒロさんがこっち食べてください。俺は普通のでいいです。」
「やるって言ってんだろ!こういう時は素直に貰っとけ!」
「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なくいただきます。」
生に近い半熟の目玉焼きをご飯にのせて、箸で切り込みを入れるととろとろの卵が流れ出した。
ヒロさんの作る料理は優しい味がしてとっても美味しい。
パクパクと食べていると、ヒロさんがじーっとこっちを見ているのに気付いた。
ヒロさん、箸があまり進んでないみたいだ。食欲無いのかなぁ?
「どうかしましたか?」
「えっ!?いや…なんでもない。」
ヒロさんはちょっと慌てた様子で箸を動かし始めた。
だけど、暫くすると今度はチラチラと俺の様子を覗い始めた。
俺に何か話したいことでもあるのだろうか?あの様子だと、言い出しにくい話なのかなぁ…ちょっとだけ不安になる。
「あの〜、ヒロさん?何か俺に話したいことがあるなら遠慮なく言ってください。別れたいとかだと困りますが…それ以外なら…」
「へっ!?別れたくは…ない…」
俺の言葉が意外だったようでヒロさんは一瞬固まってからそう応えた。良かった〜。
「じゃあ、どうしたんですか?俺に言いにくい話なんですか?」
「えっと…お前に頼みたいことがあるんだけど…なんか言い出しにくくて。」
ヒロさんが俺に頼み事?俺が大好きな人の頼みを断るわけないじゃないですか♪
「何ですか?俺、ヒロさんのためなら何だってやります!!」
「31日って時間空いてるか?仕事があるならいいんだけど…」
31日?カレンダーに目をやる。土曜日、バイトに行って…病院の方は確か非番だったと思うけど…ハロウィンか…病院で子どもたちにお菓子を配る日だ。
「勤務日ではないんですけど、病院でイベントがあるのでちょっと行ってきます。夕方には帰宅できると思うんですけど、それだと間に合いませんか?」
「いや、そんなに時間はかからないし、夕方ならまだ大丈夫だ。」
「良かった〜。それで、頼みってなんですか?」
「俺の行きつけの本屋でハロウィンキャンペーンがあるんだけど、俺の代わりに行ってくれないか?」
「えっ?ヒロさんの代わりに俺が本屋に行くんですか?」
「うん。仮装して行くと店舗オリジナルのパンダストラップが貰えるんだ♪レジの横に写真が飾ってあったんだけど、すげー可愛くて一目惚れでさぁー♪」
目をキラキラさせながら楽しそうに話すヒロさん。パンダ…一目惚れってところが気になるけど、貰ってあげたらヒロさん凄く喜びそうだ。
「いいですよ。だけど、その日ってヒロさんはお仕事なんですか?」
「土曜日だから休みだけど。」
「へっ?じゃあ、俺が行く必要はないんじゃ…あっ!!」
そう言えばさっきヒロさん、『仮装して行く』と貰えるって言ってたっけ。
「ヒロさん…もしかして、仮装するのが嫌で俺に頼んだんですか?」
「うん。大の大人が仮装なんて恥ずかしくてできるわけねーだろっ!」
「あの〜、俺も大人なんですけど…ヒロさんは自分が恥ずかしくてできないことを人にやらせるんですね…」
わざとしょぼーんとして見せると、ヒロさんは慌ててフォローした。
「お前は若く見えるから大丈夫だ!犬耳とか…すごくよく似合うと思うぞ!」
犬耳が似合うと言われても…あまり嬉しくないです。
「ごめん!謝るから…そんなしょぼくれた顔すんなって…別に嫌なことをお前に押し付けようと思ってたわけじゃねーんだ。ただ、俺はそういうの苦手でできねーから、お前がやってくれたら助かると思っただけで…」
ヒロさんは困ったように眉を下げて、俺の目をじっと見つめている。
仕方ないなぁ…ヒロさんに悪気がないのはわかってるし、そんな可愛い顔で見つめられたら嫌だなんて言えなくなってしまう。
「わかってますよ。パンダストラップ、貰ってきてあげます!」
にっこりと微笑みながらそう言うと、ヒロさんはみるみるうちに笑顔になった。わ〜///天使の笑顔だ〜///
「ありがとう。やっぱり野分は頼りになるな!」
些細なことだけど、頼りにされるのはやっぱり嬉しい。それに、ヒロさんの笑顔が見られただけで大満足だ。
思わずにやけてしまった顔を慌てて取り繕ってサラダを食べていると、コーヒーを飲んでいたヒロさんが口を開いた。
「あのさ、お前、俺にして欲しいこととかあるか?ストラップのお礼に何かしたい。」
へっ!?これって…数十年に一度の大チャンスなんじゃ…
ヒロさんにして欲しいことなら沢山ある。『好き』って言ってもらいたいし、一緒にお風呂にも入りたい。
でも折角だから今までしたことがないことがいいなぁ。
ご両親にご挨拶…は無理か…
裸エプロン♪…殴られそうだからやめておこう。
ヒロさんが怒らないギリギリのラインで考えないと…あっ!!そうだ♪
「じゃあ、家でハロウィンの仮装をしてもらえませんか?俺、病院から衣装借りてくるので俺の前で着て見せてください。」
「バカ!!俺、そういうの苦手だってさっき言ったばかりだろっ!ちゃんと話聞けよ。」
「わかってます。だから、外には出なくていいので、俺の前だけで着てくれませんか?俺と二人だけなら恥ずかしくないですよ。」
「充分恥ずかしいわ!そんなコスプレプレイみたいなことできるわけねーだろっ///」
「えーっ…折角のハロウィンなのに…ダメですか?」
しょんぼりした顔をしてじーっとヒロさんを見つめると、ヒロさんは戸惑うように頬を染めて視線を反らした。
それでも、怯むことなくヒロさんを見つめていると、ヒロさんはチラチラと俺の顔を覗いだした。そして…
「わかったよ…着てやるからその顔やめろ。俺が悪いことしてるみたいな気分になるだろっ…」
やった〜♪
ヒロさんの優しさを利用して甘えているのはわかってる。だけど、こうやってしょぼんとして見せるとヒロさんは大抵のことは許してくれるんだ。
自分でも腹黒いと思うけど、俺はヒロさんのことになると凄く我儘になってしまう。意地悪したいんじゃなくて、可愛いヒロさんを一人占めしたいから。
「ありがとうございます。俺もハロウィンが楽しみになりました。」
「言っておくが、ハロウィンの衣装だからな!常識の範囲内にしろよ。」
「わかってます。安心してください。」
にこにこしながらそう言うと、ヒロさんは物凄く不安そうな顔をしながらコーヒーを啜った。