純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□怪我の功名
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「賑やかだなー調子はどうだ?検温、終わったか?」
回診に来た年配の担当医が部屋に入ってきた。
「はい。お陰さまですっかり元気です。」
野分は体温計を渡しながら明るく答えた。
「ギブスに落書きしちゃダメだって大学で教えただろ。」
医師はメッセージや落書きでいっぱいになった野分のギブスを見ながら苦笑している。
「すみません。だけどこれ見てると早く退院しなくちゃって思えるんです。」
「大部屋空いたけど、移動するか?」
「あっ…いえ、大丈夫です、気にしないでください。」
「松葉杖で歩けるようになったら帰宅していいから。この分だとギブスも2週間くらいで取れそうだな。」
「はい!ありがとうございます。」
野分はニコニコしながら医師を見送った。
「部屋空いてなかったのか…移動させてもらえば良かったのに。」
「いいんです。あとちょっとで退院できますし、それに大部屋だと…」
野分はグイッと俺の腕を掴んで引き寄せると、唇にキスをした。
「こういうことできないので♪」
「の…のわ…///テメー、ドサクサまみれに何してんだ!津森さんもいるのに…」
「俺は不純同性行為なんて見てませんよ。」
津森はわざとらしく視線を反らして窓の方を向いている。絶対に見られてた…
「邪魔者はそろそろ退散しますね。上條さん、ごゆっくり♪」
…ムカつく!!やっぱりああいうタイプは苦手だ。
「やっと二人きりになれましたね。」
「怪我人が何言ってんだよ…」
「ごめんなさい。怪我なんかして心配かけてしまって。」
「野分、俺さ…今度のことで思い知ったんだけど、いつも自分のことだけで精一杯で、我儘で、強くもなくて、勘違いばかりして…ごめんな。」
勘違いで済んだから良かったものの、もしも野分の身に何かあったら冷静に対処できる自信はない。
一人で何でもできると思っていたけれど、俺は野分がいないとダメなんだ。
「ヒロさん、そんなことわかってますから今更謝らなくてもいいですよ。」
「おい…そこは普通、そんなことないですって言うところだろ!」
(ボカッ!!)
「ヒロさん、俺、怪我人…グーで殴らないでください。」
「うるせー!ボケ!!」
『そんなことわかってる』か…野分の一言で心がふわっと軽くなる。
ありのままの俺を野分は受け止めてくれる。やっぱり俺は野分でないと…
「キスしてもいいですか?」
「一々聞くな!バカ///」
唇が触れ合い、野分の温もりが伝わってくる。
さっきは一瞬だったけれど、今度はゆっくりと…いつまでも野分を感じていたい。
病室でする3度目のキスは甘く優しく俺の心を満たしていった。