純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□通勤デート?
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マンションを出ると、ヒロさんは住宅街の方に向かって歩きだした。
駅までの道はいつもの大通りを通って行く道と、公園を抜けて行く道、住宅街を通る道の3通り。
時間に余裕のある時は公園の道を通ることが多いのだけれど、ヒロさんは迷わず住宅街に向かって行った。
公園なら人気のない場所を見計らってヒロさんと手を繋げるかも…と期待していたのだけれど、住宅街では通勤途中のサラリーマンや部活の朝練に行く学生さんも多くてヒロさんに手出しできそうにない。
もしかして、さっきエレベーターの中で抱き締めた所為?
朝からベタベタされるのが嫌だったのかもしれない。ちょっと残念だけど、仕方ないか…
歩幅を合わせてヒロさんと並んで歩いていると、広い庭のある大きな家の前でヒロさんが足を止めた。
「ヒロさん?どうしたんですか?」
ヒロさんはフェンス越しに庭をじっと眺めている。ヒロさん、こんな家に住みたいとか思ってるのかなぁ…
広くて芝生の庭があって…ん?もしかして、この家が宇佐見さんの実家に似てるとか?
宇佐見さんの実家はぐるりと高い塀に囲まれていて、とっても広い家だというのは知っているけれど、塀の中には入ったことがない。
子供の頃に遊んでいた宇佐見さんの家を思い出しているのだとしたら…
胸がチクチクする。ヒロさん、俺だけを見てください。宇佐見さんのことなんか考えないで…
「あっ、来た来た。」
黒オーラを必死に抑えている俺に気付かないまま、ヒロさんは嬉しそうに顔を輝かせた。
何が来たんですか?イライラしながら、庭を見ると…
「ワン、ワン、ワワン」
大きな犬がフェンス越しにヒロさんに飛びついてきた。顔を舐められそうになって、ヒロさんは笑いながら避けている。
「おはよう。これから出勤だから舐めるのは勘弁してくれ。」
優しく犬の背中を撫でながら、微笑むヒロさん。犬も嬉しそうにヒロさんに尻尾を振っている。
「あの〜…その犬は?」
「ここの家の犬。この家、先月から持ち主が変わったらしくて犬も引っ越してきたみたいなんだ。本屋行った帰りに見つけて、お前にそっくりだなーと思って眺めてたら、こっちに寄って来るようになって、今ではすっかり俺に懐いてるんだ。」
「そうなんですか。」
なーんだ…
勝手に宇佐見さんに結び付けて嫉妬していた自分が急に恥ずかしくなってきた。
だけど、この犬、ちょっとヒロさんにベタベタしすぎなんじゃないですか?犬相手にほんの少しだけ嫉妬してしまう。
「コイツにお前を紹介したくてこっちに来たんだけど、こうやって見比べてみるとやっぱり似てるなー。」
ヒロさんは俺と犬を交互に見ながらはしゃいでいる。
それはいいんだけれど…この犬、ラブラドールレトリバーとセントバーナードのハーフですか?
やたらと大きくて、真黒で、愛嬌があるというのかブサカワというのかとにかく個性的な顔をしている…似てるって言われてもあまり嬉しくないんですが…
複雑な気分で顔を顰めている俺を見て、ヒロさんはクスクス笑っている。
まあ、ヒロさんが楽しそうだからいいか。好きな人の笑顔が見られるなら、笑われたってかまわない。
「この犬、名前何て言うか知ってますか?」
「知らない。飼い主とは会ったことねーんだ。」
「あそこの小屋に『チビの家』って書いてありますけど…」
二人で同時に犬の顔を見て、それからヒロさんと顔を見合わせて…
『アハハハハ…』
なんだか楽しい。こんなに声を出して笑ったのは久しぶりだ。隣では大好きな人が笑っていて…
出勤途中に住宅街の一角にいるだけなのに、デートをしているようなドキドキワクワクした気持ちになってしまう。
ヒロさんと一緒なら、いつでもどこでも俺は幸せに包まれる。ヒロさんは凄い人です。