純情エゴイスト〜のわヒロ編〜
□ハロウィン小夜曲
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マンションに帰ると、部屋の明かりが付いていた。
「ただいま。」
ドアを開けると、野分が笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさい。お風呂にしますか?食事にしますか?それとも」
「その先を言ったら殺す!」
「はいはい。そんなに怒らないでください。」
俺をなだめるように微笑みながら、靴を脱ぐ間鞄を持ってくれた。
「ヒロさん、これケーキですか?」
「ああ、今日はハロウィンだからお前に買ってきた。それやるから変なことするんじゃねーぞ!」
「嬉しいです。ありがとうございます。」
嬉しそうにケーキの箱を受け取って、キッチンに向かって行く野分。
喜んでもらえてよかった。
着替えてリビングに入ると、食事の用意ができていた。
カボチャの煮物の甘い香りが漂っている。
あれ、何でこんなにカボチャ料理が多いんだ?不思議に思っていると
「病院でジャック・オー・ランタン作ったんです。オレンジ色のカボチャは装飾用なので味が落ちるんですが、なんとか工夫して作ってみました。」
「そうなのか。なんか見たことない料理もあるけど、旨そうだな。」
食卓につくと、手を合わせて野分と一緒に挨拶する。
『いただきます。』
「こうして、ヒロさんと一緒にご飯食べるの久しぶりですね。」
「そうだな。お前、仕事忙しいみたいだけどあまり無理するなよ。」
「はい。心配掛けてごめんなさい。」
「あやまらなくていい。心配していなくはないが…俺はお前がやりたいことをやってるのが一番だと思ってるから。あ、これうめーな」
カボチャのコロッケはサクサクしていて美味しい。煮物に揚げものにスープにサラダ…やっぱり料理では野分に勝てないな。
そんなことを考えながら食べていると、いつの間にか野分が俺の顔をじっと見つめているのに気付いた。
「なんだよ…そんなにじーっと見られたら食べずらいだろ ///」
「ヒロさんはかわいいです。」
「バカ ///」
俺のどこに可愛い要素があるのか未だに疑問だが、この台詞を聞くと少し安心する。
言われる度につい悪態をついてしまうが、本当はもっと言って欲しいと思っている…のかもしれない。
食事が終わって俺が後片付けをしている間に、野分がケーキを用意してくれた。
ハロウィン限定のカボチャモンブランが売り切れていたので、生クリームと苺でデコレーションされたロールケーキにしたのだが、
晩飯がカボチャ尽くしだったから結果的には良かったと思う。
「こんな美味しそうなケーキ貰っちゃったら、ヒロさんにいたずらできませんね。」
野分はそう言いながらケーキを切り分けて俺に差し出した。
「お前に買って来たんだから、お前が先に食えよ。」
「はい。それじゃ、いただきます♪」
幸せそうな顔でケーキを食べる野分を見ていると、こっちも嬉しくなってくる。
「ヒロさんもどうぞ。」
今度はフォークに刺した苺を俺の口元に運んできた。
「恥ずかしいからそういうことするな!」
「えー…ダメですか?」
また、黒デカ目で俺の方をじーっと見つめてくる。
その手にはのらねーぞと毎回思うのだが、この攻撃に勝てたことは一度もない。
「あーん」
仕方なく口を開けると、甘酸っぱい苺が入ってきた。
「ヒロさん、かわいい。」
「いたずらできないとか言って、してるじゃねーか…」
「いたずらじゃなくて、愛情表現です♪そう言えば、まだトリック・オア・トリートって言ってませんね。
俺はもうケーキもらっちゃったので、ヒロさんが言ってください。」
「別にそんなの言わなくてもいいんじゃねーの?ガキじゃあるまいし。」
「えー…折角のハロウィンなのに…」
まただ。黒目攻撃…
「わかったよ。トリック・オア・トリート!これでいいか?」
「ヒロさん、ごめんなさい。俺、お菓子用意してませんでした。だから、いっぱいいたずらしていいですよ♪」
いたずらっぽい顔で微笑む野分…
はめられた!!
こうやって、俺はいつもこいつのペースに引き込まれてしまう。
ムカつく…だけど、そんなところも嫌いじゃない。
「風呂入ってくる。」
俺が立ちあがると、野分もついてきた。
「今日のお風呂はハロウィン仕様ですよ♪」
「なんだそれ?」
扉を開けて風呂場を除くと、ジャック・オー・ランタンが輝いていた。入浴剤も泡が立つタイプの物で泡がキラキラと光って見える。
なんだか家の風呂場とは思えない雰囲気だ。
「すげー!綺麗だな…」
「はい。だから、一緒に入りましょう。」
「え!?俺は一人で入りたい…」
「ダメです!ヒロさんがいたずらしたから、顔がベタベタなんです。責任とって洗ってください♪」
いっぱいいたずらしろって言うから、ケーキを食わせるふりをして口を開けて待っている野分の頬に思いっきりくっつけてやっただけなのに。
悪魔だコイツ…
ジャック・オー・ランタン。それは天国へも地獄へも行くことを許されなかった男の魂の灯…
ハロウィンでは魔よけとして飾れている…はずなのに野分には全く効かないらしい。
俺がグルグル考えている間に、野分は楽しそうに服を脱がせていった。
何度も一緒に入ってはいるのだが、身体を洗い合うのは未だに慣れない。
ランタンの明かりで薄暗いから明るいよりはマシかと思ったが、仄かな明かりの下でやられるのは返って恥ずかしい。
「電気つけねーか?」
「つけて欲しいですか?」
「…やっぱいい///」
恥ずかしくて野分の胸に顔を埋めると、優しく抱きしめられた。
泡のなかで抱き合いながらキスを重ねる…
「ヒロさん、好きです。」
俺も好きだよ…声には出せない台詞を心の中で呟く。
天国へも地獄へも行けなくていいから、このままずっと野分と一緒にいたい…
そんな俺の願いを諌めるかのように、ジャック・オー・ランタンは炎を消した。