純情エゴイスト〜のわヒロ編〜

□開雲見日☆
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夕方、宇佐見さんの家に行った。都内一等地の高級マンションと聞いていたが…あまりにも立派な建物で躊躇してしまう…

エントランスでうろうろしていると、ぐったりとした表情のヒロさんが中から出てきた。

「ヒロさん!!」

「野分!?お前、なんでここにいるんだ?」

俺の顔を見て、ヒロさんはビックリしている。

「ヒロさんのことが心配で…ヒロさんこそなんで宇佐見さんの家にいたんですか?合い鍵貰うような仲なんですか?」つい大きな声を出してしまった。

「野分、落ち着け。でけー声だすな。」

「ヒロさん、もしかして最近、朝晩宇佐見さんの家に通ってるんじゃないですか?」

言葉に出すつもりじゃなかったのに、心の中で漠然と考えていた不安が一気に溢れ出てしまった。

そして、ヒロさんからは一番聞きたくなかった答えが返ってきた。

「そうだよ。別に隠してたわけじゃねーけど、お前に言うと気を悪くするかもしれないと思ったから。」

やっぱり…毎日宇佐見さんに会いに行っていたんですね。胸が痛い…

「時々宇佐見さんの家に行っていることは知っていましたが、幼馴染だからと思って我慢していました。でも、合い鍵貰って毎日通っているなんて酷いです。」

ヒロさんは俺だけのものなのに…

「宇佐見さんには絶対に渡さない!」

俺はヒロさんをしっかりと抱きしめた。

ヒロさんは俺の背中に手をまわしてポンポンと叩いてから小さな声で

「こんなところで抱きついてるんじゃねーよ///」

と言って俺の足を思いっきり…踏みつけた…

「痛っ…ヒロさん痛いです…」

「テメー、また一人で変に誤解して悩んでたな…ちょっとこっちこい!」

俺はヒロさんに手をグイグイ引っ張られて宇佐見さんの部屋の前に連れて行かれた。

ヒロさんはポケットから鍵を出して、扉を開けている。



部屋の中は真っ暗で人のいる気配はなかった。

「宇佐見さん、お留守だったんですか?おじゃまします。」

そう言いながら中に入る。

ヒロさんが電気のスイッチを入れると、無駄に広いリビングが広がっていた。あまりの広さに茫然としてしまう。

「そこに座れ!」

ヒロさんに言われるままにソファーに腰を下ろす。

ヒロさんも俺の前に座ると、隣に置いてあったクマのぬいぐるみを抱きしめながら話し始めた。

「秋彦が同居人と旅行に出かけてるんだ。2週間くらい留守にするって言うからその間家のことを頼まれたんだよ。鍵はその間借りているだけで、秋彦が帰ってきたら返すことになってる。」

「そうだったんですか…」心にかかった霧が少しずつ晴れて行く。

「ったく、ペットの世話を人に押し付けて自分は旅行とか信じられないよなー。おまけにこっちは野分にまで誤解されるし。」

「すみません。ヒロさんを信じてなかったわけじゃないんです。ただ、相手が宇佐見さんだったから…」

「わかってるよ。ちゃんと説明しておかなかった俺も悪かったし、不安にさせてごめんな。」

「ヒロさん ///」

俺はヒロさんの隣に移ると、クマを抱っこしているヒロさんをギュッと抱きしめた。

「野分…苦しい。」

「はい。でももうちょっとだけ。」

ヒロさんが俺の方に顔を向けてくれたので、唇に優しくキスをした。

「ヒロさん、好きです…」

そのままヒロさんのシャツの中に手を入れると、ヒロさんがバタバタ暴れ出した。

「それはやめろ!ここ、秋彦の家!鈴木さんも見てるぞ ///」

鈴木さんって…このクマですか?

「じゃあ、続きは家に帰ってからいっぱいしましょうね♪ところで、宇佐見さんのペットってどこにいるんですか?もしかしてこのク…鈴木さんとか?」

一瞬、鈴木さんの前にご飯を並べて甲斐甲斐しく世話をしているヒロさんを想像してしまった…

「んな訳ねーだろ!!マリモと鰻と金魚がいるんだよ。」

「すごい組み合わせですね…」

「鰻と金魚は朝晩餌やらねーといけないし、水槽の掃除もあるし…もうやってらんねー!!」

そうか、それでヒロさんぐったりしてたんだ。

この前感じた匂いは水草の匂いだ。

「お疲れ様です。それじゃあ、疲れが取れるように晩ご飯は鰻にしましょうか?」

「お前、時々怖いこと言うよな…」

「冗談ですよ♪」

「帰るぞ。続き…するんだろ ///」

「はい!!」

スタスタと部屋を出るヒロさんに少し遅れて俺も部屋を後にした。

鈴木さんのリボンにこっそりメモを挟んできたのはヒロさんには内緒だ。

『ヒロさんは俺だけのものです。 草間野分』
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