純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□通勤デート?
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『行ってきます!』
玄関を出て直ぐに、右手に握っていた鍵を鍵穴に差し込んだ。
ガチャリ…戸締りよし!
「くそー!先越された。手に鍵持ってるとか卑怯だぞ!」
鞄の中からやっとのことで取り出した鍵を片手にむくれているヒロさんは子供みたいで可愛らしい。
頭を優しく撫でながらにっこりと微笑みかけると、ヒロさんはいつものように眉間に皺を寄せて目を反らしてしまった。
「ごめんなさい。大人げなかったですね。」
「バーカ!鍵閉め競争してる時点で大人げも何もねーだろっ!」
「アハハ、そうですね。」
今朝はヒロさんと出勤時間が重なって、途中まで一緒に通勤することになった。
いつもは自転車だけど、今日は電車通勤。ヒロさんと同時に家を出るのは久しぶりだからワクワクした気分になる。
朝起きたのは俺の方が早くて、朝食を作った。食べ終わったのはヒロさんが先で、後片付けをしてくれた。
身支度の早さは…ヒロさんに敵わない。遅刻ギリギリまで寝ていることもあるから、急いで支度をするのに慣れているようだ。ネクタイなんか一瞬で結んでしまう。
ヒロさんに遅れを取らないようにと、俺もいつもよりスピードアップして行動していたら、それがヒロさんにも伝わったようで、いつの間にやら朝の出勤準備レースになっていた。
ヒロさんは負けず嫌いで頑張り屋さんだから、些細なことでも俺に負けるのは悔しいらしい。
そんなヒロさんが可愛くて、俺もつい大人げない態度を取ってしまった。
そんな訳で…鍵閉め競争は俺の勝ち♪
「まだこんな時間じゃねーか…電車一本早いのに乗れるぞ。」
ヒロさんは時計を見ながら苦笑している。少しでも長く一緒にいたいのに、くだらない競い合いの所為で必要以上に早く家を出る羽目になってしまった。
「じゃあ、駅まで少し遠回りして行きましょう。」
「そうだな。」
相槌を打つと同時にヒロさんが駆けだした。
「ヒロさん?どうしたんですか?」
慌ててヒロさんを追いかけて行くと、ヒロさんはエレベータのボタンをバン!と叩いた。
「ヒロ…さん?」
「俺が負けたまま終わるわけねーだろ!」
「アハハ…ヒロさん…かわいい…ハハハ…」
今度はエレベータのボタンを押す競争だったらしい。ヒロさん、可愛すぎです。
ツボにハマってなかなか笑いが収まらない俺の頭をヒロさんが(ボカッ)と殴った。
「いつまで笑ってんだよ!エレベータ来たぞ。」
幸いエレベーターには誰も乗っていなかった。
扉が閉まると同時にヒロさんを背中から抱き締める。
「朝から何やってんだよ///」
「ちょっとだけ…」
1階に着くまでほんの数秒だったけれど、ヒロさんの匂いと温もりを感じて幸せな気分になった。今日は良い日になりそうだ。