創作小説 砂のしろ

□3章
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時刻は5時。

階段は静かだ。少しでも音をたてると、それが響いて大きな音に変わって俺を驚かした。

俺は窓枠に寄りかかって、そのまま壁を背に座りこんだ。大きく息を吸って確認。大丈夫、落ち着いてる。

下の方はかなり騒がしそうだけれど、俺がいる高さまでは届かないみたい。人の声は混ざりって、ざわざわとした風の音のように聞こえた。

その中に、特別に耳に届く声があった。女の子の声だ。澄んだ綺麗な声だなぁ。ただ、今は、そんな綺麗な声も泣き叫び、悲しさを引き立てていた。

「ああ……」

ため息をつくと、ふと、ついさっき見た光景を思い出した。振り払おうとするけれど、なかなか離れてくれない。やっぱり赤いのは苦手だ。

再び心臓が激しく脈を打ち始めた。落ち着け。大丈夫、なんとかなる。ここには昌平もアカリもいる。だからきっと、大丈夫。

俺も早く、階段をかけ下りた昌平たちを追いかけないと。そうはいっても、そんな気分にはなれなかった。このまま、ここでやり過ごしたい。

心臓もだいぶ落ち着いてきた。深く息を吐きながら目を閉じる。すると、女の子が叫んだ言葉が掠れながらも、はっきりと聞き取れた。

「……あさひなくん…………」

朝比奈。名字だ。晴人、俺のクラスメイトの。

たった今、死んだ友達。

また思い出しそうになる。ダメだ。晴人が死んだところだけじゃない、必然的に、夏目さんが死んだときのことも思い出してしまう。必死に振り払おうとしても無駄だった。

早く忘れよう、こんなこと。また皆と会うときまでには、ちゃんと笑えるようにしておかないと。俺にできることはそれぐらいなんだから。

突然、何だか嫌な感じがした。

目を開けると、景色から色が消えていた。全部、白黒だ。何の音もしない、本当の静けさに包まれた。

前にも見たことがある。きっとまた「巻き戻る」んだ。

佐藤さんたちの説明はよく分からなかったけど、俺たちは時間を巻き戻っているらしい。そうやって誰も死なない世界を目指している。

地面が崩れ始めた。そうだ、どうせならこの風景を覚えていよう。人が死ぬところなんかよりも楽しい。

景色が瓦礫みたいに崩れていく。ひびが入って、チカチカ光りながら割れる。割れた隙間からは真っ黒な闇が見える。

足場が崩れて、俺もその闇にのみ込まれた。手に取った風景の瓦礫は、手の平の中で割れて、砂に変わってしまった。

不思議だなぁ、俺もこうなるのかな。ぼんやりと、そんなことを考えていた。
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