銀土

□反対言葉の愛の歌。
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もう嫌だ。そう思った時には、屯所の自室で膝を抱えて泣いていた。


今日は非番だ。でも折角近藤さんから貰っても、もて余すだけで。


浮かんでくるのは銀色の天パ。



顔を付き合わせたら、すぐに喧嘩に発展するアイツの事。



どうせ発展するなら、仲良くなりたいなんて考えてる時点で頭の中はもう末期だろう。



夕方になっても、腹も減らない。


それどころか……吐き気まで込み上げてくる始末。



気分転換に外に…出よう。かぶき町方面には行かないようにしていれば、奴とは会うことは無いだろう。








やはり、歩いても気分は依然、変わらない。



歩いていた町角の電機屋から今流行りの音楽が流れるのを耳にする。




『僕がずっと前から思ってる事を話そうか』



ピクリ、立ち止まる。



『友達に戻れたらこれ以上はもう、望まないさ』



友達………いや、友達じゃ満足出来ないほど、好きだ。



『君がそれでいいなら、僕だってそれで構わないさ』



奴はどう思っているんだろう?敵か喧嘩相手か。それともただの『大串君』なのか。

君がそれでいいのなら…きれいごと。
実際、俺は抱えてしまったこの思いをどこに捨てればいいのか。


『あてが有るわけないだろう』


自分の心中とリンクしたかのように、急に空模様が怪しいものになる。

終いには、とうとう大粒の雨となって見上げた顔面いっぱいに降り注ぎ始めた。



どこかに入らねば、本能はそう訴えて来るが精神的にはもう少しこのままが心地よく思えた。



今なら、雨に溶かすこともできるし、きっと誰もが帰路を急ぐばかりで自分には見向きもしない。


声さえ……そう、声さえ、抑えることが出来れば。





諦められればそれでいい。







「おい、風邪ひくぞ。副長さん」




間延びした声と共に赤の唐傘が頭上に降る雨を遮った。




「よ、万事屋………」


何で、奴がここに。

想い人の姿を認めた途端、走って逃げようと足に力を込めてスタートをきった。




「あっ!おい!待て!」




何故奴は追いかけてくるんだろう?


何故奴は自ら、傘を俺に翳すのだろう?



何故俺は……男…なんだろう。




可笑しい。俺は侍だ。刀に一筋に生きると決めてからずっと近藤さんを支え、真選組を支えてきたのに。




なんで、あいつと判り合いたいと思ってしまったんだろう。






……何で…こんなにもこんなにも…あいつの事が……好きなんだろう。




一緒に居たいと思った相手が……よりによってあいつ、だなんて。




いや、あいつだから…かな。




自分じゃどうしょうもない位に引かれてしまい。




「土方ァァ!!」



キィィィ!!とブレーキ音と一瞬遅れて人の悲鳴。




……気づいたら大交差点の反対側のガードレールの近くで…万事屋に後ろから抱き止められる形で倒れていた。





交差点の真ん中では大型トラックが進行方向とは逆向きで止まっている。



……どうやら、俺は赤信号を突っ走ってしまい、万事屋に助けられた…みたいだ。




慌てて体を起こして、奴の状態を確かめれば。



「……よ、万事屋ァァ!」



後頭部から黒々としたアスファルトに向かって血がドクドクと流れていた。



きれいな銀髪が赤々としたそれで、みるみる内に汚れていく。




「……ひ、じかた…」


痛みに顔を歪めながら、俺の安否を確かめようとする姿に胸が締め付けられながらも、懐から携帯を取りだして交通規制と救護を屯所に頼む。



この悪天候で血がどんどん、流されていく。



「済まねぇ!!俺が…ッ!」



謝るばかりじゃ、ダメだ。


応急処置を施しながらも、手が震える。




「土方……」


掠れ声で再び、俺の名を呼ぶから、そちらに耳を傾けながらも作業をする手は止めない。




「土方…は怪我…ない?」



「……ああ、ねェよ…ねェ…よ」



視界が悪いのは、きっと雨が目に入るから。


……決して眦から流れるもののせいじゃない。


万事屋は俺の言葉を耳に入れると、安心したように微笑んだ。




それから、山崎と救護班達が来たのは、5分後の事だった。
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