銀土
□TRICK OR TREAT?
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たまには。そう考えたのが奇しくもハロウィンの日だった。
土方は今日は非番を勝ち取っていた。
丸1日のお休みの消費はやはり、恋人の所で。
そう考えていたのだか。
「土方さーん、TRICK or TREATォ!」
「うわっ!」
屯所の外廊下で、ブンと振られた瓶に反応して、バク転で避けた土方に、仕掛けた沖田は舌打ちをする。
「いきなり、凶器を振り回すな!舌打ちするなよ!」
「いやいや、土方さん。俺ァ言いやしたぜィ?“TRICK or TREAT?”って」
聞き慣れない単語(しかも横文字)に明らかに戸惑う土方を見て、沖田は腹を抱えて笑いだした。
「まさか!知らないんですかィ!?」
「さ、侍にチャラついたもんなんざ、要らねェ!!」
「今は誰でも知ってまさァ。ったく、菓子ぐらい出せよ、土方死ね」
そう悪態ついて去っていく沖田の姿を何となく見つめていた直後。
「ああああっ!目がイテェ!くっそ!総悟ォォ!!テメェが死ねェェ!!」
さっき、振られた瓶がそばに転がっていたので思わず拾えば。
“いたずら用!激辛唐辛子パウダー”
のラベルが赤々と張り付いている。
近くの手洗い場で眼をすすぎ、注意書を読めば。
“絶対に人に直接かけないでください”………の文字。
「あいつ……絶対の意味……わかってないだろ…絶対」
ここまで来れば、そうひとりごちるしか無かった。
確かに町に出てみると、ハロウィン一色に染まっている。
いつから、こんな風になったのか。
黒と濃紺のコントラストが上品な休日用の着流しを身にまとい、刀を差した姿で町を闊歩しながら、土方は心中で毒づいた。
何処もかしこもカボチャのオバケだらけ。
「……ん?」
店を見て周って銀時へのお土産を探していた土方は、ふと一軒のお店に寄った。
「いらっしゃいませ!」
中からは可愛らしい仮装をした女性店員が接客に現れた。
「何になさいますか?」
甘いパンプキンタルトやケーキがショーケースにズラリと並んでいる。
ここはケーキ屋だった。
(あいつは甘いもんでも……でも、糖尿の数値は……検査結果大丈夫かな……)
頭の中はすっかり嫁モードであることに気づかない土方である。
「このパンプキンタルト、ください」
「はい、ありがとうございます♪」
菓子を買い再び外へ出れば、何やらドラキュラの格好をした軍団がぞろぞろ歩いている。
いや、ドラキュラだけじゃない。
ゾンビや海賊、魔女までいるではないか。
「今日はハロウィンパーティー!皆さん、仮装して出掛けましょう?」
街頭に立って、呼子をしている人がいる店に近づいてみれば。
「あれ?副長さんか……銀さんは?今日はいないの?」
トナカイなのだろうか?全身茶色のタイツに角を着けたシュールな長谷川が首をかしげている。
(この人……銀に近づけたくねェな。選んで付き合えばいいのに……)
内心は酷いことを考えていても、表面は普通を装う土方である。
「ああ……」
「あ、良かったら副長さんも何か仮装してみない?銀さん、喜ぶよ?」
何で俺が……と言いかけて、後半の長谷川の台詞で悩む。
“銀さん、喜ぶよ?”
あの精悍で端整な顔が笑顔に変わる所は見たいかも。
「少しだけ、見せてもらう」
そう言って店内に入っていった。