銀土
□夜空のティラール
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「あの月、どっちが撃ち落とせるか…勝負しよう」
M24を片手にビルの屋上で、銀髪を風にたなびかせながら、銀時は言った。
「は? 」
細身のダークスーツがよく似合うな…と内心見惚れていた中で、突然言うものだから、危うく聞き逃すとこだった。
「だから、あの月をどっちが撃ち落とせるか勝負しようって……土方、聞いてなかったの?」
此方を振り返って首を傾げて、柔らかく笑う銀を見てると、俺たちの置かれている立場を忘れそうになる。
俺達は……『殺し屋』だ。
そして、俺と銀はバディを組んでいて且つ恋人同士の立場にある。
殺し屋……生まれた時から俺らは二人きりで生きていた。
そこで松平のとっつあんに拾われ、今がある。
確かに仕事は簡単じゃねぇし、辛いけど銀がいるなら耐えられる。
それくらい、大好きだ。
今は仕事を終えてターゲットが所有していた高層ビルの屋上階に二人きり。
秋風に吹かれて汗で湿った髪を冷やしながら月を見上げる。
白く輝く儚いそれは、朝になったら見えなくなる幻のようで。
少し、不安を感じてまた、銀に視線を戻す。
表情自体は先程とぱっとみ、変わりなく見えるけど、どことなく影が映る。
今日のターゲットは……銀時の昔の知り合いだった。俺とも仲良くしてくれた優しかった奴。
国に仇なす敵として亡き者にしたのだが、やはり、ダメージは強かったんだと悟る。
「………いいぜ、やろう。時間はまだ有るしさ」
正直今の銀は何を思っているかは、正確には分からない。
でも、銀の言葉にはいつも意味が在るし、いつも支えてくれる銀を俺が助けたかった。
……十四郎は、穏やかな笑みで俺に答えてくれた。
月を撃ち抜ける訳ないと、バカにするかと思ったけど、やっぱり十四郎は優しい。
その優しさに何度救われたんだろう。
こんな仕事だから、何度追い詰められたか。
だけど、十四郎がいてくれて微笑んでくれる度に自分の居場所はここだ、と再確認出来たんだ。
……だから、今も生きていられる。
M24の銃口を大胆不敵な月に向ける。
「ルールは簡単だよ、月に穴を空けられれば…勝ち、OK?」
「ああ」
サイレンサーを先端に付けているため、トリガーを引いてもバスッ!と地味な音で終わる。
バリン!
月に被るようにして立っていた空中外灯が割れた。
「確かに、な。月が欠けたように見えるな…次は俺か」
十四郎は愛用のP95をホルスターから抜いて…………
俺の左胸に押し付けるように当てた。
「十四郎?……どうしたの?」
月を撃ち抜く勝負の筈なのに、何故俺の心臓を狙うのか。
「……銀……」
うつ向いたまま、十四郎は声をそっと夜の空気に溶かす。唇を噛み締めて…微かに肩も震えてる。
「どした?」
震えてる十四郎が可哀想で、緩く肩を抱いて顔を覗く。
「辛いこと……あったら俺に言って欲しいんだ…いつもいつも銀は俺に優しくて……か、カッコいいけど……銀を支えられるような…俺で居たいんだ!」
堰を切ったように勢いよく自分の気持ちを吐露し始める。
「うん……ありがと……」
優しい。やはり十四郎は優しい。
こんな俺には勿体無くて仕方無いほどに。
嬉しくて、精神的に色々きてた俺は込み上げるものを抑えて礼を言う。
「でも、何で俺にコレ向けてんの?」
「……俺の…俺にとっての月は…銀だから。銀は…俺の闇を照らしてくれるから……月を撃ち落とさないといけないなら……」
「ゴメン!俺が悪かった!」
瞬間、十四郎は銃を投げ捨て(いつも大事にしてるから少し驚いた)、隙間が無いように俺に抱きついた。
「銀は…悪くねぇよ!……気づけなくて…ゴメンな……」
含まれている意味が今なら痛いほど判る。
「…十四郎、顔、見たいから…上げて?」
ゆっくりと俺を見上げた瞳は潤み、まるでブラックダイヤのように美しくて。
柔らかな唇に思わずキスを仕掛けた。
「ふぅ……ん、」
あげる声が色々ヤバすぎてとりあえず、手前で止める。
「……ほんと、ありがと…十四郎…」
いつもの俺に戻ったのを理解したか、天使の笑顔を見せてくれた。
それを見てまた、俺達は強く互いを抱き締めあった。
なぁ?十四郎。お前は世界一のティラールだよ。
だって、俺の心を見事にいつも撃ち抜くんだから。
もう、離してやんねーから、覚悟しなよ。
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あれ?誰だ、こいつら……甘すぎる、キャラ崩壊した………