記念部屋

□甘い甘い幸せを。
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「ねーねー!もう用意した?」


教室内で、女子たちが交わす会話の内容に反応し、机上でうつらうつらと船を漕いでいた土方はハッと顔をあげた。


「どうしたんです?土方さん」


「いや……」


不審に思った総悟に、適当に返事をしたが、内心はそれどころではなかった。


急いで、鞄の中から携帯を取り出してカレンダーを開く。


「………あ」


今日の日付は2月13日。明日は……。


「バレンタインデー…用意しやしたかィ?土方さん」


ゆっくりと土方が顔を総悟に向けると、ぺろぺろキャンディをガリガリ噛みながらのニタニタ顔。


「……やべェ、まだだ…」


「ありゃー、銀八の旦那、拗ねやすね」


いや、正確にはまるっきり用意して無かった訳じゃ無い。


用意はしたのだ……一応……。


「ま、せいぜい…頑張って下せェ」


その一言と共に次の授業が始まるチャイムが鳴った。



一人暮らしのアパートに帰った土方は、真っ先に台所の冷蔵庫の前にいた。



「用意して…無いことも…ない…が」


バクンと、扉を開けて中から銀のバットを取り出す。


その上には、オーソドックスな一口大のハートのチョコが5粒。


中々形は良いが、何処と無く手作り感が否めない作品である。



そう見えるのも仕方ないこと。事実、これは土方の手作りなのだから。


「…出来…悪いよな…」


でも、市販を渡したくはない。だってそんなもの、あのモテる銀八の事だ、幾らでももらうだろう。



仮にも(全然、仮じゃないが)彼女の立場にある自分までもがそんなものを渡せば……幻滅されるかもしれない。



記憶に残るような、一番と言ってもらえるようなバレンタインデーにしたいのだ。



……慣れない作業で、手は絆創膏だらけだが、甘党の彼が喜んでくれる顔を思い浮かべるだけで、短気な自分でも頑張れた。


そういえば、総悟が土方の手の甲をみてにやにやしていたが、忘れておいた方がいいかもしれない。


「……後は…ラッピング…するだけだか…」


いつも素直になるまで時間かかる自分だ。明日くらいは素直に好きと表現したいから。


「……思ってンのは…銀八だけじゃねェんだからな」


本人が居ないのに、真っ赤になってなってしまった顔を冷ましながら、チョコの仕上げに取りかかった。



当日。いつもより早起きした土方は、丁寧にラッピングをしていた。


流石に女子がするリボンは、恥ずかしい為、銀色をイメージした包装紙に包み、紙袋に入れる。


「……よし!」

今日は、部活もないし半日で終わりだ。午前が終わったら準備室にもっていくぞ!


勢いよくドアを開けて、(その際に額をぶつけた)出発した。




「えー、今年は先生にチョコを持って来ないで下さい」


朝のST時間。銀髪をふわふわとさせて教室に入ってきた担任の一言に、クラスの女子は勿論、土方も凍りついた。



「え?どういう風の吹き回しですか?いつもなら甘味くれくれ煩いのに」


新八が首を傾げて不思議そうに、質問するが、いつもよりも暗い声色で、あーとかうーだのを繰り返した後に、やっと言葉を発した。


「……今年から貰わねェ事にしたの。ハイ、連絡は以上〜」



気まずそうに、教室内を見渡して最後に土方をみやる。


やたらと熱の籠った視線を向けられて戸惑っている内に、ST終了を告げるチャイムが鳴り響いた。




予定通り、午前で終了した教室内に1人で土方は残り、ラッピングされたそれを取り出して見つめていた。


あの視線の意味を知りたい。でも、怖いし。


ふいに窓の外が視界に入り、思わず感嘆の声をあげて窓辺に近寄っていた。


灰色に曇った空からチラチラと、雪が舞う。


それは早くも地面に積もる気配を見せており、キラキラと輝いているようで。

こんな雰囲気のある日に渡さずにいつ渡すんだと、自分に気合いを入れる。


「…折角作ったし。受け取らなかったら…殺す」


何とも物騒な台詞を吐いて、銀八の私物化されている準備室に向かった。
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