記念部屋
□貴方だけを抱き締める夜。
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冷たい指先で…貴方の腕を捕まえる。
でもね、離れて“逝って”しまうの。
『ごめんね、十四郎』
聞きたくないよ、聞きたくない。そんな言葉。
「―――っ!……はぁっ、はぁっ!」
「十四郎?……どうしたの……っ!」
月が高く昇る真夜中の静寂を突き破り、土方は飛び起きた。
今日は万事屋に泊まって二人抱き合い、眠っていた。
その最中にいきなり跳ねれば、銀時だとて驚くだろう。
「わ、悪りぃ……はぁはぁっ!」
「大丈夫か、十四郎……」
肩で荒く呼吸を繰り返す為、あまりにも心配になり、ぎゅっと正面から抱き締めてみる。
小刻みに震えながら、それでも必死に抱きついてくる土方をあやすようにポンポンと優しく背を撫ぜた。
枕元に置いていたミネラルウォーターのペットボトルの蓋を片手で器用に開け、土方に口移しで飲ませれば、呼吸が落ち着いたか、銀時にポツポツと話し出す。
「お前の……消える夢を見た……白夜叉の格好をして…刀で自分の胸を刺して…俺に笑いかけながら……」
月明かりに照らされ、艶やかな烏羽色の髪がキラキラと色を放つ。
それにキスを繰り返しながら、ごめんと口にする。
やはり、あの時の事を土方だけは忘れられなかったようだ。
あの時―――。銀時が皆から離れて独りで魘魅に対抗するため、世界を救うために消えようとした……あの事を。
皆は記憶を無くしたが、何の因果か自分を除いて土方ひとりだけはしっかりと記憶を保有していた。
あれ以来、一緒に眠る晩は時折うなされて寝付けなくなっていた。
「何処にも、いかねェよ……」
ぎゅうと眼を瞑り、首筋に鼻を擦りつけてくる土方をあやしながら、涙に滲む視界をぼんやり綺麗だと眺めていた。
消えたくない、でも救うには―――。
あの時はああするしかもう手段は無くて。
「ごめん、ごめんな……」
嫌だ。十四郎をひとり置いて逝きたくない。
何度も何度も死線を潜ってきたのに、ここで終わりたくない。
そんなにまで、十四郎を思いながら生き続けていた。
「銀時……泣かないで……」
気づけば、銀時の眦からはらりはらりと顎を伝い滴が溢れていた。
赤紅が艶々煌めくのに魅入られながら、土方はふわふわと跳ねる銀髪に手を伸ばす。
「もう、色を失わねェで……」
輝く銀でいて。銀は、俺の光なの。
「ああ……」
互いに苦しくなるほど抱き締め合い、まだ明けぬ夜に身を委ねながら眠りついた。
世界が色を喪うより、貴方が消える方が余程怖いの。
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切甘。
7000HITありがとうございますm(__)m
此方はリク小説だったのですが、如何でしたか?
本当に本当に、虚愛は幸せです!
ありがとうございますm(__)m