銀土
□In trembling voice
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「なぁ、もしもさ…俺が化け物だったら…どうする?」
「……へ?」
いつものように、非番を明日に控えた土方は万事屋の事務所兼居間にて、恋人である銀時と二人並んでソファーで寛いでいた。
夜も深まり、銀時が依頼主から貰ったという上等な日本酒に舌鼓を打っていたところでの発言に、ボンヤリした頭が疑問符を並べ始める。
銀時が化け物?……そりゃ、ダラダラしてんのに強ェし、それでいて人の機微を正確に読みとった上で優しいし、武士道には共感するものもあるが……。
無意識の内に胸の内で惚気始めていた土方は、隣でクスクス笑う声に引き戻されて相手を睨みつけた。
「……んだよ」
「んーん。幸せだなって」
そう言った銀時の表情には、先程の言葉の意味を聞き返せるような雰囲気も無く、その時は何となくそれで流れてしまった。
……今思えば、喧嘩してでも聞き出せば良かったのに。
『In trembling voice』
次の非番は何時だったろうか。今度もまともに取れれば良いが、ストーカーやドSを抱える身としては目処が立たないかもしれない。
非番を万事屋でたっぷり愛されて過ごした翌日、書類を捌きながらそんなことを直ぐに考えてしまう辺り、この身の半分は銀時が持っていってしまったのだろう。
「副長、お茶を淹れましたよ。休憩しません?」
監察方である山崎が盆にのせた茶を、土方の邪魔にならぬようにして、文机の上に置く。
「ああ、助かる」
空気の入れ換えの為に少しだけ開けた襖の向こうは、紺青が空を支配する空夜となっており、春が近づいたとはいえ、まだ寒々とした印象を与えた。
“なぁ、もしもさ、俺が化け物だったら…どうする?”
何故かそれを思い出してしまい、伝い来る不安から誤魔化すように茶を啜る。
喉から胃にかけて温かく染み込むそれに、疲れてきた体が癒されるのを感じながら、次の書類の内容を読み込もうとした時、山崎が思い出したようにそういえばと声を掛けた。
「任務先で少し耳に挟んだ情報なんですが、どうやら一部の攘夷志士達が万事屋の旦那を狙っているらしいんです」
「……それは確かか?」
「いえ、まだ確かでは無いので調べ上げてからご報告しようと思ったのですが、副長の旦那ですしね」
一応、小耳に挟んでおいた方がと言い置いて失礼しますと土方の部屋を出ていった。
「まさか……な」
あの日の銀時の台詞はもしかして、何かのフラグだったのではないかと不安になりつつも、今やるべき事は期限が差し迫った書類を片付ける事だと、再び机に向かった。