銀土

□be covered with bruises
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「死にたくねぇ……」


ふと、そう思って灰掛かった虚空をぼんやりと網膜に映した。


己の銀髪が朱で濡れて、悲しく光る。


路地裏まで傷みきった体を引きずり、壁に背を預けてズルズルと座り込めば、赤紅の帯を描いた。



ハッハッと短く息を吐き出すだけで苦しいが、まだ死にたくないと思うのは、黒髪のあの子が屯所にいるから。



「……待ってろよ、十四郎……」


必ず、証拠を掴んで来てやるから。


幹部服の内ポケットから携帯を取り出そうとするが、手先が冷たく悴み、それもままならない。


生暖かい風が頬を滑り、深く裂けた肩の傷に触れていく。


重い。腕も瞼も。


ほんとは傍らに転がした真剣を取って、帰りたい。


十四郎の黒髪を撫でて、ただいまっていう約束なのに。


きれいなあの子を護るのは……護るのは……。


「銀!」


「十四郎……」


自ら伸ばした指先さえもう、見えなくて。



温かな両腕に包まれた瞬間、眦から何かが伝った。


……十四郎。


「…ごめんね…十四郎……」



愛してるから、愛してるから。



駆けつけ、己を力強く抱き締めたかれに小さな紙切れを渡して薄く笑う。



「……死にたくねぇ…」



「死なせねぇよ!銀!」

十四郎は必死に必死に、血まみれの彼を掻き抱いた。失いたくない。

唯一無二の存在を、己の半分を。



彼は山崎たちが慌ただしくストレッチャーを用意しているのを見ながら、


「……大好き」

耳元でとびきり甘く囁いて………。



瞬間、涼雨が二人の間を濡らし始めた。



誰の色にも染まらない彼は、己が纏う赤光に包まれて……動きを静かに止めた。



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W副長、死ネタ。


be covered with bruises=傷だらけの


やっぱり、甘々がいちばんかな。

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